昭和四十三年に品川区史の編修事業が始まってから、今年で五年になる。その間に編修員はもとより、関係部課の職員は、鋭意その事業に力をつくしてきたのであるが、今回ここに、通史の第一冊を公刊する運びになった。さきに『品川県史料』・『品川の民俗と文化』の二巻を別冊として著わし、ついで『資料編』と『地図統計集』とを各一冊出版したのは、この通史を出すための準備作業でもあった。
本巻に収めたのは、原始時代より近世末期にいたる時代であるが、品川区の地域では、原始より古代・中世にかけての史料は乏しく、近世史料も散失したものが多く、東海道の首駅である品川宿を、精細に復元することにも困難があり、さらに旧荏原の区域の農村関係の史料も甚だ少なくて、編修員はかなりの苦心をしたが、それぞれ努力の結果として、ようやく本書の完成をみた。
通史編修の方針としては、区民が郷土の歴史に親しむことができるのを主眼として、文章はなるべく平易に、事実も耳目に入りやすいものを取りあげることとし、編修員の研究成果が、その行間におのずからこぼれ出るように努めた。
本書編修の間には、多くの方から好意ある資料の提供を受け、先学諸賢や郷土出身者からはしばしば有益な助言を蒙った。それらの貴い協力によってでき上がった本書が、区民の方々に喜んでいただけ、また研究や教育等に利用される機会が多ければ、この仕事にたずさわった者として最大の喜びである。
昭和四十八年一月
区史監修者 児玉幸多