品川貝層

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大正二、三年に行なわれた東海道線品川駅南、八ツ山の切り通しの工事にあたって、その西側の崖には第12図に示されるような露頭が出現したという。ここで観察された地層が、現在でいう何層にあたるか、どんな問題があるかを、当時の報告に基づいて考察してみよう。


第12図 品川八ッ山付近鉄道沿い(西側)の地質露頭(渡辺久吉による)(12)

上部層 ⑦ ローム層   〔関東火山灰層〕

    ⑥ 褐色粘土層

    ⑤ 砂礫層    〔武蔵野砂礫層〕

下層部 ④ 黄色粘土層

    ③ 青色粘土層               〔東京層〕

    ② 青色砂質粘土層

    ① 凝灰質砂層(貝化石を含む)〔品川貝層〕

 報告者の渡辺久吉(12)は、④層と⑤層との不整合関係によって、⑤以上と以下とをそれぞれ上部層、下部層とに分けて更新世と鮮新世の地層であろうとのべている。現在の知見からすれば、いずれも更新世のもので、⑤は武蔵野砂礫層、④以下はすべて東京層にあたる。つまり、⑤層は前述の御殿山台地をつくる砂礫層の緑辺部にあたると思われる。斜面に堆積しているように描かれているのは、東京層を切って谷が掘られたためかもしれない。④層以下で問題となるのは、④黄色粘土層と③青色粘土層との関係である。渡辺はその関係を不整合とは明言していないが、この境は明瞭で、④層はこの図の左手で線路面以下にさがると記している。③以下を切った谷に④が埋めたという判断が下されるかもしれない。このことは若干③層以下の岩相にも関係している。それは①の貝化石を含む細砂層が火山灰質で、豆つぶ大の白い軽石片を含むと書いてあることである。もともと東京や横浜北部の東京層あるいは模式的な下末吉層のなかには軽石片があまりなく、それより下位の地層のなかには多量に含まれるからである。つまり、この軽石を含む事実と③と④との切れ合いの事実からすると、④は上部東京層であろうが、③以下は下部東京層のグループに入るとみられないでもない。ちなみに、復興局建築部の報告(13)によると、④と③との境は中部層と上部層との不整合面にあたるとしており、①は中部層の上部のいわゆる下部粘土層に属すと考えられている。なお、貝化石を含む①層は、古くからおびただしい軟体動物や有孔虫類化石を含むことで知られる「品川貝層」にあたる(14)(15)(第2表)。この品川貝層の層位は、化石群の特徴からみると問題があり、まだ定まった位置を与えられていない。福田・安藤(16)は、東京各地の貝化石産地の地層ならびに貝化石群を比較し、品川貝層は東京層(ここでいう上部東京層)とは別の、より古い年代のものである可能性もあるとのべている。

第2表 品川貝層産出の貝化石(主なもの,徳永重康(14)による)
Calliostoma unicum DKR. var. shinagawensis TOK. … コシタカエビス
Natica clausa DESH. ……………………… ハイイロタマガイ
Buccinum undosum L. ………………………… スジグロホラダマシ
Fusinus nodosoplicatus(DKR.)……………… ナガニシの仲間
Tritia japonica (A.AD.)…………………… キヌボラ
Columbella martensi LKE. …………………… マルテンスマツムシ
Cancellaria spengleriana DESH. ……………… コロモガイ
Drillia principalis (PILS.)………………… モミジボラ
Ringicula arctata GLD. ……………………… マメウラシマ
Dentalium cfr. weinkauffi DKR. ……………… マルツノガイ
Acila insignis(GLD)…………………… キララガイ
Anadara broughtonii (SCHR.)………………… アカガイ
Limopsis woodwardi A.AD. …………………… シラスナガイ

○印:最豊産種,無印:豊産種

 御殿山周辺のみでなく、大崎袖ヶ崎の崖でもかつて良好な露頭があって、凝灰質砂層中に厚さ約一メートルの貝化石層(大崎貝層)が介在したという報告もある。その位置は、品川貝層よりも標高が少し高いところであったらしい。そこでは武蔵野礫層はみられず、上部東京層が堆積面をつくるという記載からみると、大崎貝層は品川貝層より新しく、上部東京層の最上部に含まれるものと考えられる。