1 自然史をくみたてる

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 自然史は、たんに過去の地表のできごとを時間に従って羅列すればよいというわけではない。土地のできかた、できた時代、なぜできたか、その条件を明らかにするのはもちろんのこと、そのときどきのさまざまな環境条件を生き生きと記述することでなくてはならないだろう。それによって、自然の進化をつらぬく法則性を知ることができる。

 しかし、歴史をくみたてる材料は、人間の歴史と同じように、時代を遡れば遡るほど、失われてしまったり、文字どおり埋もれてしまっていて、利用できるものが少なくなる。年代についても精度がおち、各時代の様子の復元も精密さを欠くようになるのはいたしかたのないことかもしれない。そのような場合には、品川区以外で、参考になる材料があればおおいに利用しなければならない。

 さて、前章でのべたように、当区に現在みられる地形の原形が生まれたのは、東京層の堆積で生じた荏原台、高輪台の形成時代である。人間の一生にたとえると、これは誕生日である。したがって、これ以前の歴史は、いわば親とか先祖の系譜ということになるであろう。文字どおり、主に海底で基礎づくり、地固めがおこなわれていた時代なのである。