品川区の地形は第一章第三節でみたように、台地とその周辺の斜面、目黒川と立会川などの沖積低地、台地の直下からその前に拡がる海岸低地(干拓・埋立地を含む)に大別される(第16図)。
台地とその周辺の斜面地域は海抜高度が高く、低地からの比高も大きいので洪水に対しては安全である。ただ浅い谷や窪地などでは短時間に大量の雨をもたらす豪雨により、ごく短時間のあいだ浸水する恐れはある。
目黒川と立会川およびその支谷などの谷底低地は、品川区内ではもっとも頻繁に水害を受けてきた地域である。目黒川の谷底低地は、品川区に入ってからは標高五メートル以下となり、非常に低平となる。そのため、しばしば溢流による水害が発生してきた。そのうえ、東海道の街道が通っていた砂洲と、その内側の砂洲からなる二つの微高地が河口付近にあるので、かえって内陸側が低くなっている。そのため、降雨が排水しきれないで発生する内水氾濫もしばしば発生している。立会川の谷底低地も、目黒川の谷底低地と同様なタイプの水害が発生する地域である。しかし、目黒川に較べて傾斜が大きく、そのうえ、流域面積が小さいので、目黒川の谷底低地よりは水害を受ける頻度は少ない。
海岸低地で発生する水害には高潮による水害、内水氾濫による水害および河川の氾濫による水害がある。高潮による水害は砂洲上に連なる集落で被害を受けやすく、目黒川と立会川の河口部でいちじるしい。とくに、波のエネルギーにより家屋が破壊されたり、流失したりする場合には被害が大きい。しかし一般には、砂洲上では地盤高が二~三メートルあるので、海に面した側をのぞけば浸水の危険は小さいし、浸水時間も短い。砂洲と台地にはさまれた後背湿地性の低地は地盤が低く、かつ平坦であるので、排水条件が非常に悪い。そのため、しばしば内水氾濫が発生し、水害常習地が形成される。干拓・埋立地では高潮による水害の危険性が大きい。しかし、最近造成された埋立地は、地盤高が二メートルを越えているので危険性は小さくなっている。また、背後の海岸低地の防波堤的な役割もしている。
なお、品川区は幸いにも下町低地や大田区の一部のように大河川の下流部の平野に位置しているわけではないので、利根川や多摩川の氾濫で受けるような大水害は発生しにくい。