崖・斜面の成因と災害

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品川区内の崖・斜面には、海岸低地と台地の境界を形成する海食崖、台地を刻んでいる谷の谷壁、および台地の高輪・荏原台と目黒台との境界をなす段丘崖とがある。海食崖は、縄文時代に海が現在よりも内陸に入りこんでいた時に台地が削られて形成された崖で、垂直に近い急勾配を持っている。比高は目黒台の端では約一五メートル、高輪・荏原台の端では約二〇メートルである。谷壁は台地を複雑に刻みこみ、目黒川や立会川の主谷ではやや急勾配であるが支谷では傾斜はゆるいところが多い。また、一般に南面する谷壁は北面する谷壁より急勾配である。比高が最も大きいのは目黒川左岸の低地と高輪台との間の谷壁で約二五メートルある。一部では傾斜も急で斜面というよりは崖となっている。また、目黒台を刻んだ谷では比高は一五メートル以下である。段丘崖は品川区内では大井三丁目付近に分布するだけで、傾斜は緩く比高も五メートル弱である。

 これらの崖や斜面は第16図にも示してあるが、垂直に近い急勾配のところ以外は、人工的に変形されている。変形された崖や斜面の多くは切土と盛土によって階段状になっており、法面は大谷石などによる擁壁で補強されている。以前は、雑木が成育し、貴重な緑地となっていた斜面は宅地などに変わってしまい、ほとんど姿を消している。また最近では、わずかに残された比較的急な斜面も、マンション建設のブームにより姿を消しつつある。

 一般に崖崩れという場合には、土が露出している崖が崩れることのほかに、擁壁の崩壊も含んでいる。崖崩れによる災害も市街地の発展とともに変質してきている。それは、市街地が拡大する過程で、盛土・切土などにより従来とは異なる性質の人工的な崖が形成され、崖崩れが発生しやすい場を作っていること、従来、人が住まなかった崖下の危険地帯にも住宅が進出したこと、樹木の伐採や排水溝の設置などのために降雨の流出機構が変わり、崖崩れが発生しやすくなる場合があることなどから把握される。

 崖崩れの発生条件についても、これまでいろいろの研究がおこなわれている。それらの研究の成果によれば時間雨量が二〇~三〇ミリメートルで、かつ二時間雨量が四〇~五〇ミリメートルを越える時に発生する可能性があることが指摘されている(12)。もちろん、雨量が多ければ多いほど被害個所がふえることは言うまでもない。また、崖崩れが発生する時刻は、降雨のピークから一、二時間遅れる場合が多く、降ってから二時間程度の水の動きが発生要因として重要なことを示している。

 崖崩れの規模は一般にはそれほど大きくはない。崩壊量はほとんどが一〇〇立方メートル以下で、一〇立方メートル以下の場合がかなり多い。それは、擁壁でふさがれていないところでは、露出している土の風化した表層部の厚さ数十センチメートルの部分が崩落することが多いためである。擁壁が崩壊する場合には規模はやや大きい。この場合には、擁壁に使用した材料が悪いためや、排水が悪いために発生することが多い。とくに、宅地造成が不完全で、排水路が不備であったり、擁壁の背後からの水抜きが不良である時には、崖崩れ発生の可能性は非常に高くなる。また、斜面に多少手を加えた程度で完全な擁壁が作られていない場合にも被害がいちじるしい。