日本の気候の特徴は、ひと口にいえば温帯多雨気候という術語で表現され、それは日本全国にほぼ共通にあてはまる。季節の推移という観点からこまかくみても、中央日本の表日本側という程度の範囲では、その特性はほぼ共通していると考えるのが無難である。したがって、品川区の気候といっても、その季節の移り変わりに品川区独自の特色があるわけではない。
日本の気候は、夏と冬の季節風の変化によって特徴づけられる。夏には小笠原高気圧が張り出し、南東のあまり強くない季節風下で晴天が続く。冬にはシベリア高気圧から吹き出す強い北西の季節風により、裏日本では雪、表日本では晴天という対照的な天候がみられる。これらの典型的な季節の間に、移り変わりの季節があり、バラエティに富んだ四季が作り出される。
四季は暦の上では三ヵ月を区切りに春夏秋冬として表現される。しかし自然界のいろいろの現象やわれわれの生活は、暦の上の季節と同じような推移をたどるわけではない。気温・降水量・日照時間などの一年を通じての推移にみられる、いわゆる自然季節の移り変わりに大きな影響を受けている。ここでは、自然季節に基づいて季節の推移を追ってみよう(1)。
日本の冬はシベリア高気圧からの北西季節風の吹き出しによって始まる。その吹き出しが安定して継続的となるのは十一月下旬である。このころを境として裏日本では降水量や雲量が増加し、表日本では晴天が続く。そのため、表日本では乾いたつめたい北西の季節風が吹く日が多くなり、異常乾燥注意報や火災警報がしばしば出される。
二月も下旬になると、温帯低気圧が日本の南岸を通過するようになり、それに伴う降水は時には雪となって交通機関をマヒさせる。また、低気圧が日本海に入ると、春一番とか南大風とかよばれる強い南寄りの風が吹く。その時には気温は急上昇する。北西の季節風がやみ、大陸からの移動性高気圧が通過するようになると春もたけなわとなる。春の初めには日本南岸を低気圧が周期的に通過し、その後は移動性高気圧と低気圧が交互に通過する。そのため、天候にも周期性があるのが春の特色である。
春が終わって六月上旬になると梅雨前線が日本の南岸に停滞しはじめ、梅雨期がはじまる。梅雨期は梅雨前線が北上する七月上旬まで続く。天候は雨または曇りの日が多い。また、六月下旬には中休みがあり、一時天候が回復する。梅雨の中休みをはさんで梅雨期は前期と後期にわかれる。降水量は前期よりも後期に多く、後期にはしばしば集中豪雨が発生する。
梅雨前線が北上し、小笠原高気圧が張り出してくると梅雨があけ、盛夏が訪れる。梅雨があけるのは七月上旬である。盛夏には南東の季節風が卓越し高温多湿の状態が続く。時おり発生する雷雨に蒸し暑さを救われることも多い。
八月下旬を過ぎるとしのぎやすい日が多くなる。前線は再び南下しはじめる。気温は昇降を繰り返しながらしだいに低下し、停滞している前線や、低気圧による降雨が多くなる。いわゆる秋霖である。この季節には台風が襲来したり、日本に上陸しなくても前線を刺激するために豪雨が発生しやすい。この時期に日本に接近する台風は、九月十五日や二十五~二十六日に多く、これらの日は台風特異日とよばれている。
十月の上旬を過ぎると、前線の停滞がみられなくなる。また、大陸からの移動性高気圧が東進して、さわやかな秋晴れをもたらす。天候は周期的に推移するが、晴天の日が多いのが晩秋の特色である。十一月三日などの晴天特異日もみられる。十一月末になるとシベリア高気圧からの吹き出しが始まり、秋の終わりをつげる。