品川区の気温

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東京都の年平均気温の分布を第20図に示した。東京の中心に最も平均気温が高いところがみられ、西にいくにしたがい低下していくことや、山間部に入るとその勾配が大きくなっていくことが読みとれる。品川区は東京の中心部よりはやや低いが、年平均気温は摂氏一五度以上である。


第20図 東京都の年平均気温(昭和42年~46年)

 年平均気温でみると、標高差があまりない場合には、東京都二三区程度の広さでもそれほど差はない。しかし、最高気温や最低気温をとってみると、海の影響や都市気候の特性などから、いくつかの特徴を指摘することが可能になる。品川区内では長期間にわたる気温の資料が得られない。そこで、東京(気象庁、標高六メートル)、羽田(航究気象台、標高一五メートル)、世田谷(東京農業大学農場、標高四一メートル)、立川(東京都農業試験場、標高七五メートル)の四地点の資料を比較し、その結果に基づいて品川区について推測することにした。

 四地点の月平均最高・最低気温を第5表に示した。四地点とも月平均最高気温の最大値は八月に、月平均最低気温の最小値は一月に出現する。月平均最高気温の最大値と最小値の差は東京(摂氏二一・七度)、世田谷(摂氏二一・六度)立川(摂氏二一・五度)で、ほぼ同じであるが、羽田(摂氏二〇・九度)ではこれら三地点よりわずかであるが小さい。一方、月平均最低気温の最大値と最小値の差は、各地点とも月平均最高気温の場合よりも大きい。また、東京の値(摂氏二三・三度)に較べて、世田谷(摂氏二四・五度)や立川(摂氏二六・三度)ではかなり大きくなっている。これらのことからも地域的な差がみとめられるが、より明瞭に示すために第21図を作製した。第21図は二三区内でも比較的郊外的な性質が強く、周辺の建造物などの影響を受けにくい世田谷の観測値を基準にして、各地との差を求めたものである。

第5表 都内各地の月平均最高・最低気温

(昭和41~45年の平均)

地点 種別 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
東京 最高気温 9.5 9.8 12.8 18.5 23.3 25.4 28.7 31.2 26.6 21.1 16.9 11.7
最低気温 0.6 1.0 4.2 9.8 14.8 18.2 22.2 23.9 19.9 13.7 8.8 3.3
羽田 最高気温 9.2 9.5 12.2 17.5 22.1 24.4 27.6 30.1 25.6 20.4 16.7 11.5
最低気温 0.3 0.9 4.2 9.7 14.6 18.0 22.0 23.9 19.9 13.7 8.8 3.3
世田谷 最高気温 9.7 9.8 13.0 18.6 23.8 25.8 29.1 31.3 26.6 21.1 16.8 11.6
最低気温 -1.5 -0.2 2.9 8.7 13.8 17.3 21.4 23.0 19.1 12.4 7.2 1.3
立川 最高気温 9.0 9.3 12.4 17.7 23.0 24.9 28.1 30.5 25.6 20.3 16.1 11.0
最低気温 -4.0 -2.2 1.4 7.7 12.5 16.5 21.0 22.3 18.5 11.3 5.5 -0.9

(資料は東京管区気象台発行の東京都気象月報による)


第21図 世田谷と各地の月平均最高・最低気温の比較

 月平均最高気温の差では、東京の十一月、十二月を除けば、各地点とも世田谷の値より小さいのが特徴的である。とくに、羽田での値が小さく、三月から九月にかけては立川の値をしたまわる。これは羽田の観測所が海に面した空港内にあるために、海陸風の影響を受けやすく、海から相対的に低温な風が吹き込むことが、おもな原因と考えられる。同様なことは、東京についても羽田ほど顕著ではないが、五月から七月にかけてみられる。羽田と東京の差が夏期に大きく冬期に小さいのは、海風の強さの違いと考えてよいであろう。また、市街地での最高気温が低い原因には、空中浮遊物による日射の減衰も影響していよう。立川が世田谷に較べて低温であるのは、年平均気温の分布にもみられるような大地域内での差であろう。

 月平均最低気温の差では、東京および羽田と立川では全く逆の年変化を示している。東京および羽田と世田谷の差は、夏期に小さく冬期に大きい。そのうえ、東京および羽田の方がつねに高温である。一方、立川と世田谷の差はその逆で、夏期に小さく冬期に大きい。そのうえ、立川の方がつねに低温である。一月には東京と立川の差は摂氏四度を越える。また、月平均最高気温では東京と羽田に顕著な差がみられるが、月平均最低気温ではわずかに羽田が低いだけである。

 市街地が郊外に較べて夜間に相対的に高温になる現象は、東京付近だけでのことではなく、各地でみとめられ、都市気候とよばれている。それは、市街地ではコンクリート造りなどの建造物が密集しているので、郊外に較べて日中に地表付近で蓄積される熱量が多く、その熱が夜間に輻射熱となって放出されることや、集積している人工的な熱源から放出される熱量が大きいことなどが原因と考えられている。したがって、より郊外的な色彩の濃いところほど最低気温は低くなっている。

 以上のことから考えると、品川区では、海岸低地では羽田にみられるような特性を示し、台地部の住宅地では世田谷とよく似た特性を示すであろうことが予想される。また、目黒川の谷底低地では、工場が数多く立地しているし、海風は谷沿いに台地内に入りやすいので、東京とよく似た特性を示すと考えられる。