現在の品川区地域は江戸時代の行政区画に直すと、南品川宿・北品川宿・二日五日市村・下大崎村・居木橋村・上大崎村・谷山村・桐ケ谷村・戸越村・上蛇窪村・下蛇窪村・大井村・中延村・小山村の二宿、十二ヵ村よりなりたっている。そして南品川は、さらに南品川宿・南品川猟師町・南品川新開場(利田新地)に、北品川は北品川宿と品川歩行新宿とに分かれる。
いまそれら町・村の概況を示すと大体つぎのようになる。ただしこの地域は関東大震災および太平洋戦争でかなり深刻な打撃と破壊をうけているうえ、戦後の都市化が全域に急速にすすんだがため、頼るべき史料がほとんどない。わずかに史料を豊富にのせている『品川町史』および、生(なま)の史料としては利田新地の開発者である利田家所蔵文書(その主要部分は立正大学に、その一部は文部省史料館と品川神社に所蔵されている)と、下蛇窪村の伊藤家文書(主として下蛇窪村の村政にかかるものだが、品川領に属するため、品川領の関係事項も知ることができるものがある)しかないので、これらをできるだけ生かしながら、それに『新編武蔵風土記稿』および「南浦地名考」など、利用しうる関係史料を参考にして本章をまとめた。個々の村の説明に移るまえに、江戸時代の村一般についての概況をのべておこう。