組合議定書

488 ~ 492

組合村の結成と同時に、このような組織を結成させるについての幕府の主旨(狙い)を尊守する旨の村々村民一同の申し合わせ書をつくって、村民一同が連印をしている。「関東向御取締御改革ニ付被仰渡候趣御請連印帳」(品川区内下蛇窪村)、「関東向御取締御改革之趣被仰渡書并御請証文小前連印帳」(品川区内谷山村)というように村によって名前が若干異なるが、下蛇窪村の議定書が、組合村結成をさせるにあたっての幕府の主旨を五ヵ条にまとめて前文に掲げ、その主旨を体して村民が守り実行することを幕府に誓った後文四〇ヵ条よりなっているのにたいし、谷山村のものは前条にあたる部分がなく、また後文にあたる部分が三七ヵ条で、またその内容も全体的なすじみちとしては、ほぼ同主旨のものであるが、個々についてみるとかなりへだたりがある。ではこの議定書は村によってみなその内容を異にするのかというと、必ずしもそうでなかったらしく、文政十二年三月付の武蔵国秩父郡上名栗村の「関東向御取締趣意并組合村定請印帳」(「町田家文書」・学習院大学蔵)のものと、下蛇窪村のものとが全く同じものであるところをみると、比較的典型的なものというものがあったと考えられる。

 下蛇窪村のものをみると(「伊藤家文書」)その前文は、

 近来無宿者たちが長脇差をさし、鉄砲などをもってのし歩き、在々所々で乱暴狼藉におよぶ者があり、また百姓町人のなかにもこれをまねて、無宿者同様の所業におよぶものがあり、その折々に処分してきたが一向にやまないので、鉄砲や長脇差を帯びている者があったら召捕え、悪事の有無にかかわらず、また無宿・有宿にかかわらず死罪にする旨の触を先ほど出したが、それは百姓の風俗が悪者の風俗にそまないようにという御上の有難い配慮から出たものであるから、万一前記のようないでたちをして乱暴におよぶ者がいたら、村役人・小前一同申しあわせてからめ捕り、領主役所や八州廻りの回村先に差出し、また色々とこれに説諭をくわえて、それでもどうしても身持ちがなおらぬようであれば、八州廻りの廻村先に密に訴え出るように、それでもなお今後悪者どもが徘徊するようであれば、それは村役人の落度(おちど)にするから充分気をつけるよう(第一条)。

 村内に悪者どもが徘徊したり、無商売の者がいるのは村役人はもちろん小前百姓まで五人組前書の主意を充分わきまえないからであるから、農業のひまなときや休日に何度も何度も五人組前書を読み聞かすように(第二条)。

 近ごろ世をあげてそうであるが、なかんずく関東筋の村々はとくに奢りに走り、神事・祭礼・婚礼・仏事などに格別の費用をつかうので、それが農村困窮の原因になっている。したがって村役人はこの点をよく承知し、せいぜい質素倹約第一にとりはからうよう(第三条)。

 在(ざい)において歌舞伎・手踊・操(あやつり)芝居・角力そのほか、人を寄せ集めて行なうことはすべて御法度であるのに、近来それが守られなくなっている。なかんずく芝居を行なったことがわかって処分された事件が度々あったにもかかわらず、まだやまず、あとで露顕することが度々ある。もし今後そのようなことがあれば主催者はもちろん、芝居道具を貸し与えた者まできびしく処分するから、その点村役人・小前ともに充分承知するように(第四条)。

 近ごろ小百姓にいたるまで心得ちがいをして、農業を怠り商売ごとに精を出すため、手余り地ができて高持百姓が難儀をしている。そのうえ商売をしていると自然と生活が奢りがましくなるので、あたらしく商売を始めた者はもちろん、前々から商いをしている者も段々とやめるように(第五条)。

の五ヵ条からなっており、これを村々で尊守して、御上の意にそうよう専心する旨を誓い、その具体的実施細目として後文の四〇ヵ条が続くわけである。この四〇ヵ条は前記禁止事項の細目ケースについて村民一同注意し尊守するとともに、万一それを犯す者のあった場合は、かならず八州廻りまで密告することを誓い、経費のかかるケースについてはその分担方法をとり決めたものである。全文をあげるわけにゆかぬが、重要と思われるものをかかげてみよう。

 今般組合村を組織するにあたって、村高をにらみ合わせて三ヵ村、あるいは五~六ヵ村で小組合をつくったが、その小組合で議定をよくよく守り、万一それに違背するような村があったら、早速関東御取締りの廻村先までその旨を密告する(第二条)。

 前記のような悪者に店を貸したり宿を貸した者がいたら、早速密告するか捕えて差出す。そのときの費用は悪者を隠した者が五割、(小)組合村が三割、残りは悪者を差しおいた者の居村が高割りで負担する。万一当人が困窮者で負担能力がないときは、組合と親類がこれを負担する。居村で悪者を差押えて差出すときは、番人足と飯米の費用はともに組合村が高割で負担する。囚人を護送する費用は悪者に店を貸し、また宿を貸した者七割、その組合の者三割を罰金として負担する(第三条)。

 無宿長脇差そのほか火付盗賊人といった悪党が村に立入ったときは、村役人はもちろん、その近辺に居合わせた者たちが早速手配をして取押える。また悪党が大勢で手に余るときは小組合に連絡し、人数を集めてこれを取押え、その悪事の程度をこまかく書きつけて差出すこと。諸入用は組合惣高割にすること(第四条)。

 有宿の悪者を取押えたときの入費はすべて、その悪者の人別(戸籍)のある村が第三条の規定にもとずいて差出す。なお無宿・有宿の区別は前者は悪事・欠落(かけおち)などのため宗門帳から帳はずしになった者をいい、後者はそうでなく有籍者をいう(第五条)。

 浪人・船こぼれなどが村へ立入って合力を乞うたとき、これまでは応分の支援をしていたため、段々と偽の浪人・船こぼれなどが村に入りこむようになった。それで大小を帯刀したもの、脇差を帯びた者へは今後一銭の合力もせず、また一夜の宿も貸さない。また万一不法狼藉をするようであれば、村方より力の強い人足を集めて取押える。しかし、ほんとうに困っている者は、見極めたうえ応分の合力をする(第六条)。

 このあと強訴徒党がましい行為のある者、博奕や賭事をする者、博奕道具を売る者、芝居宿をしたり、芝居の稽古をしたり、芝居道具をこしらへて他人に貸す者など、幕府の禁制に抵触する者があった場合は、かならず訴え出る(第八・九・一一・一二条)。

 他所の者が村に住みたいと願出てきた場合は、よくよくその出身地を調べ、農業のみを行なって商売を行なわないことが確なら、その旨の証文を取ったうえ許可をする。それ以外のものは決しておかない(第一四条)。

 上州・武州両国では土地の習慣として神社仏閣に詣り、また親類縁者をたずねるときは小前百姓に至るまで脇差をさしてゆくのが一般だが、そのため無用の喧嘩などにまきこまれて怪我をすることもある。今後は他所へ行くときは決して脇差などを差してゆくことなく、万々一どうしてもその必要があるときは、村役人の許可をうけてからにする(第一五条)。

 第一六・一七・一八条は婚礼・葬儀を華美にせず、できるだけ質素に行なうことを決めたものだが、とくに、婚礼のとき恨みのある者へは大酒を呑んで出掛けていって乱暴をしたり、また隣村より聟嫁を迎えるときは、通行の村々へ頼と名付けて酒樽をおくり、そうしないときは若者たちが大勢出掛けていって、妨祝儀と名付けて金子を差出さすなどの習慣があるが、そのようなことは厳重に止めるようにし、万一そのような所業におよぶ者があれば訴出る(第一七条)と規定している。

 近年ひそかに家業に精を出し、休日にも休まず働いて身上がよくなったことをにくみ、若者たちが大勢申し合わせて付合をしなかったり、またはその者の田畑屋敷へ石碑などを持ちこんだり、井戸などに糠やあくたや下肥などを投込んで困らせておいて、仲直りと名付けて社堂に集まって酒盛などをし、その費用を出さすなど不法の行為をすることが多いが、今後はそのようなことがないように気をつけ、万一そのようなものがあったときは、その中心人物はもちろん、それに加わった者の名前を聞き出して訴え出る(第一九条)。

等々村落生活をするうえで、これまで幕府から禁止されていたことなど、すべての項目について今回心掛けるべきことをかかげ、最後は、

 すべてについて家業専一に心掛け、親に孝行をつくし、下人は主人にしたがい、夫婦は仲良く、兄弟親しく、年上の人を敬ひ、物ごとに心を合わせ、村内がちぐはぐにならぬように、また取締まりが行届くように心掛けて、忠孝奇特の者があったら御廻村のときに申し上げます(第四十条)、というので結んでいる。