神職の生活

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江戸時代の神職の日常生活の状況を知るものとして、明治二年(一八六九)六月に品川神社の神主小泉帯刀が、新政府の神祇官に提出した神社の年中行事に関する報告書「品川神社年中行事」の控が残っている(「品川神社文書」)。明治に入っての官庁への報告書であるが、江戸時代の様式がかなりうかがえるので、ここに要旨を紹介してみる。

   品川神社年中行事

毎月一日 卯ノ刻(午後六時ごろ)に神主(かんぬし)・祢宜(ねぎ)が神前に出仕し奉幣して、祝詞(のりと)を奏上し、神楽(かぐら)三段を演ずる。

毎月二日 神主・袮宜が神前に出仕して神拝し、祝詞を奏上する。

毎月三日同右

 

正月元日 子ノ刻(午前零時ごろ)に神前に若水を供える。

  丑ノ刻(午前二時ごろ)に「新火神事」をおこなう。

  寅ノ刻(午前四時ごろ)に神前に神饌(しんせん)・鏡餅(かがみもち)・屠蘇(とそ)・雑煮(ぞうに)等を供え、松と榊(さかき)の枝を献じ、幣を捧げ、祝詞を奏上し、神楽五段を演ずる。そして神主以下屠蘇を賜わり、伊勢神宮を遥拝し、日の出ならびに大年神(おおとしかみ)を拝する。

正月二日 寅ノ刻(午前四時ごろ)に神主・袮宜が神前に出仕して神饌・雑煮を供え、奉幣し祝詞を奏上し、神楽三段を演ずる。

正月三日 二日と同じことをおこなう。そしてこの日は玉串(たまぐし)を献上する。

正月四日 卯ノ刻に神主以下神前に出仕し、神饌・節煮(せちに)を供え、祝詞を奏上する。

正月五日 前日と同じことをおこなう。

正月六日 前日と同じことをおこなう。

  酉ノ刻(午後六時ごろ)に社役が翌日の七草粥(ななくさかゆ)に用いる七草をたたく。

正月七日 卯ノ刻(午前六時ごろ)神前に七草粥(かゆ)を供える。

正月八日 この日「神衣の神事」をおこなう。辰ノ刻(午前八時ごろ)に神主・祢宜が神前に出仕し神饌を供え、神衣・幣・手毬(てまり)・羽子板等を捧げ、神楽七段を演ずる。

正月九日 神前に供えるものはいつものとおりで、朝の行事も平常通りである。

正月十五日 卯ノ刻、神前に神饌を供え、奉幣し祝詞を奏上し、神楽三段を演ずる。以後毎月十五日はこの日と同じ行事をおこなう。

二月初午 幣(ぬさ)を神前に捧げ、神楽七段を演ずる。「酉ノ刻神事」と袮し、初午(はつうま)の日の前夜酉ノ刻には神楽三段を演ずるしきたりになっている。

三月三日 卯ノ刻に神主以下神前に出仕し神饌を供え、蛤(はまぐり)・桃の花、紙雛(かみびな)・絵櫃(えびつ)・菓子等を献じ、奉幣し、祝詞を奏上し、神楽三段を演ずる。

四月十三日 大祭

  「卯ノ神事」と称し卯ノ刻に太神楽(だいかぐら)を演ずる。巳ノ刻(午前一〇時ごろ)に神主・祢宜が神前に出仕し神饌を供え、神衣・幣・桑の枝・卯の花等を捧げ、神楽三〇段を演じ、終了後、直会(なおらい)をおこなう。

五月五日 卯ノ刻に神主以下神前に出仕して神饌・菖蒲(しょうぶ)酒等を供え、幣を捧げ、祝詞を奏上し神楽三段を演ずる。

五月八日 「豊年神事」がおこなわれる。つまり神前に神饌を献じ早苗(さなえ)(稲の苗)を供え、神前で種蒔(たねま)き・田植え・稲刈り等のしぐさをして豊年を祈願する。このき神楽七段を演ずる。

六月七日~十九日 合殿の須佐之男大神(すさのおおおかみ)大祭(天王祭)、六月六日夜、須佐之男大神の御正体(神体)を神輿(みこし)に奉遷する。このとき神輿に神饌を供え神楽三段を演ずる。

  六月七日 神輿は氏子区域の歩行新宿と北品川宿を神幸し宿内の仮殿に奉安する。

  六月十三日は「中ノ祭」で神楽三段を仮殿で執行する。

  六月十九日、神輿は本社に還幸する。このとき幣を捧げ祝詞を奏上する。

六月晦日 大祓(おおはらい)

  大禊(みそぎ)が神事を酉ノ刻より戌ノ刻(午後八時ごろ)までおこなう。

七月七日 卯ノ刻に神主以下が神前に出仕して、神饌を供え、五色の糸・針・紙・筆等を献じ、幣を捧げ、祝詞を奏上し、神楽三段を演じる。

七月十五日 神前に荷葉飯(蓮の葉に盛った飯)を供える。

八月十五日 神前に草花を供え、酉ノ刻神事をおこなう。

九月朔日 「豊年神事」がおこなわれる。田舎(いなか)神楽を氏子らが演じる。

九月八日 「神衣神事」がおこなわれる、神前に神饌を供え、神衣と幣を捧げ、神楽七段を演ずる。

九月九日 卯ノ刻に神主・祢宜が神前に出仕し、神饌を供え、菊花・紙雛・椿餅等を献じ、神楽三段を演じる。

九月二十二日 巳ノ刻に神主以下神前に出仕し、神饌を供え、神楽七段を演ずる。

十一月八日 「火防の神事」をおこなう。この日は神楽七段を演ずる。

十一月二ノ酉日

十一月二ノ卯日 新甞祭(にいなめさい)

  酉ノ刻に神主以下神前に出仕し、神田の新米、新醸の酒ならびに五穀等を供え、氏子のなかから選ばれた一五人が神饌を調え、幣を捧げ、祝詞を奏上し、神楽九段を演じる。

  終了後直会(なおらい)をおこなう。

十二月五日 煤払(すすはらい)

  申ノ刻(午後四時ごろ)に献饌をおこない、「浄(きよ)めの神事」をおこなう。

節分大禊 申ノ刻に神主・祢宜が出仕して神前に神饌を供え、社役が追儺(ついな)(豆撒き)をおこなう。

  酉ノ刻に大祓の神事をおこない、神楽三段を演ずる。

大晦日 戌ノ刻に「歳暮の神事」をおこなう。