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 品川区史の編修事業は昭和四十三年に始まったが、それ以来『資料編』や『地図統計集』を刊行し、昨年には通史の第一冊として、自然編・原始古代編・中世編・近世編を収録したものを発行したが、今回通史の第二冊として、近代、現代に関する部分を出す運びになった。

 本巻では、明治維新によって新しい情勢に直面した品川、ことに東海道五十三次の首駅として賑やかさを誇っていた宿場が、宿駅制の廃止によって衰退の途をたどり、首府東京の近傍の町村として、どのような変化を示したか、というところに始まり、明治・大正期においては、品川区域の大部分は、まだ農村地帯であった状況を描いた。

 それが大正末の関東大震災によって、東京市外の住宅地として発展の徴候をみせ、その間に工業もしだいに勃興し、やがて戦後の、人口の密集した地域に変貌する素地が生れた。

 その間に、日清・日露の大戦、第一次世界大戦、大震災、つづいての満洲事変に始まる十五年戦争、それに住民はどう対応してきたのか、社会の動静はどうあったかを、この巻には描写したつもりである。

 この巻では工藤英一教授を主任として、各方面で活躍中の少壮学者が編修員として、それぞれ専門分野を担当して執筆したが、その間には、各所から資料の提供を受け、協力を得たことがきわめて多い。いまそうした多数の人々の力に支えられて、通史が完了したことは、編修員一同として感謝にたえないところである。本書が区民の方に、一人でも多く読んでいただけるならば、われわれとしてはこの上ない喜びである。なお本区史は、つづいて発行される『資料編』二巻・『品川区年表』をもって完了する予定であることを付言して序とする。

   昭和四十九年八月

                品川区史監修者 児玉幸多