大正期の特徴

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大正期を迎えて、第一次大戦の勃発と好景気の到来、大正九年三月に始まる反動恐慌、さらに関東大震災と大きな画期を経過しながら区域内の近代工業は発展をとげてゆく。

 まず、大正前半期、それも第一次大戦の終了時に近い、大正七年ごろの数字に基づいて若干の検討を試みておこう。『東京府荏原郡勢一覧』によって、品川区域内に現在した「職工五人以上」使用工場の規模別ならびに創業年次別の概況分布を示せば、次のとおりである。まず規模別分布を従業員数でみると、職工五人以上から五〇人までの使用工場で、全体二〇一工場のうち七七%を占めてしまう。さらに職工一〇〇人までの使用工場に拡げれば、八八%にも達する。しかもこのうち、職工一〇人未満の工場で四〇%を占めているのであって、中小かつ零細工場の比重の高さを知りうると同時に、機械器具・化学・紡織・金属の各工業に高い集中をみせている。これを、同じく大正七年までの時点で、創業年次別にみると、日清戦時から明治末期に至る時期と、大正六、七年という二つの時期に集中している姿をよみとれよう。しかも、紡織工業を除けば、機械器具・化学・金属の各工業ともその多くが、第一次大戦期、それも大正五年以降の好景気をふまえて、創業されたとみることができる。

第69表 区域内業種別従業員別工場分布(5人以上)
業種別 5~10名 ~25名 ~50名 ~100名 ~200名 ~300名 ~500名 ~1,000名 1,000名以上
紡織工業 16 5 3 2 1 1 1 29
金属工業 7 5 3 3 1 19
機械器具工業 32 23 12 9 5 2 1 1 85
窯業 1 2 1 1 1 6
化学工業 21 11 7 2 3 1 4 49
製材工業 1 1
印刷業 1 1
食料品工業 2 1 1 4
ガス電気業 1 1
その他 1 1 3 1 6
80 48 27 22 10 5 7 1 1 201
比率 (40) (24) (13) (11) (5) (2) (3) (0.5) (0.5) (100)

注)『東京府荏原郡勢一覧』より作成。

第70表 区域内業種別創業年次別の工場分布(5人以上)
業種別 明治~30年 ~45年 大正~5年 大正6年以後
紡織工業 1 12 7 9 29
金属工業 3 7 9 19
機械器具工業 3 22 26 34 85
窯業 2 1 2 1 6
化学工業 4 16 11 18 49
製材工業 1 1
印刷業 1 1
食料品工業 1 2 1 4
ガス電気業 1 1
その他 2 2 2 6
13 60 57 71 201
比率 (6.5%) (30%) (28%) (35.5%) (100%)

注)『東京府荏原郡勢一覧』より作成。

 さらにこれを同一資料から、使用職工一〇〇人以上の、いわば区域内主要工場として業種別に分けて掲げてみると前表の通りである。品川区域内に本店をおく企業には、資本金額をも記載してある。表示した二五工場のうち、ほぼ三分の一に当る工場は、大正五年から七年までの間に創設されているのであって、たとえば、後藤毛織の工場敷地には、同じ羊毛工業たる東京毛織大井工場・日本毛織東京工場、さらに業種は異なるが、東京電気大井工場が創業し、あるいは、明電舎・星製薬など明治末期までに区域内の代表的工場が創業されているといえよう。前述した明治期の目黒川沿岸に集中をみせていたものが、大井町へと拡大をみせてゆくと考えてよい。これを間接に、戸数・人口の増大化のなかで把えてみると、明治四十二年を起点にとれば、大崎町・平塚村に増加がいちじるしい。大正七年時点での出入人口の差引人員でみても、大崎・品川・大井・平塚の順序を示しているのである(第73表)。

第71表 区域内主要工場一覧(職工100人以上使用)
分類 名称 資本金 従業員数 創立年月
紡織工業 単位千円
東京毛織(株)大井工場 2,945 明治13年7月
日本毛織(株)東京工場 421 大正元.9
(株)白金メリヤス製造所 300 219 明治40.10
機械器具工業 日本精工(株)工場 213 大正2.10
斎藤大崎工場 136 明治42.7
(株)明電舎 2,000 345 〃 30.12
日本鉄工(株) 122 大正5.4
日本高速度鋼(株) 3,000 178 〃 7.4
(株)園池製作所 500 280 〃 5.1
明治電気(株)大崎工場 131 〃 7.5
日本光学(株)大井工場 3,000 326 〃 6.8
東京電気(株)大井工場 596 明治45.2
東京発動機(株) 137 大正6.11
塚本商店製作所 103 〃 5.10
品川製作所 142 明治39.7
窯業 品川白煉瓦(株)東京工場 3,500 154 明治36.6
化学工業 三共(株)品川工場 489 大正2.2
内国製薬(株) 195 〃 5.5
星製薬(株) 5,000 401 明治44.11
日本ペイント製造(株)東京工場 5,000 214 〃 14.
藤倉(合名)工場 200 128 〃 34.10
(合資)明治護謨製造所 70 369 〃 33.2
富士護謨工業(株) 141 大正7.6
食品工業 森永製菓(株)第二工場 438 大正4.6
その他 真崎市川鉛筆(株) 100 231 明治42.3

注)『東京府荏原郡勢一覧』より作成。

第72表 戸数と人口の増加(各年度末)
地区別 戸数 人口
明治42年 大正2年 大正7年 明治42年 大正2年 大正7年
品川町 4,488 5,358 8,301 18,262 22,910 35,051
(100) (119) (185) (100) (125) (192)
大崎町 1,735 4,179 5,958 9,544 14,626 25,599
(100) (240) (343) (100) (153) (268)
大井町 3,960 4,274 6,120 14,471 20,188 25,905
(100) (107) (155) (100) (136) (179)
平塚村 618 954 1,345 3,381 5,326 6,717
(100) (154) (218) (100) (157) (199)
10,801 14,765 21,724 45,658 63,050 63,050
(100) (136) (201) (100) (138) (204)

注)『東京府荏原郡勢一覧』より作成。

第73表 現住人口動態(大正7年)
地区別 他ヨリ入人員 他ニ出タル人員 差引人員
品川町 16,936 4,612 12,324
(30.0)
大崎町 16,728 2,089 14,639
(35.7)
大井町 15,187 2,897 12,290
(29.9)
平塚村 2,175 415 1,760
(4.3)
51,026 10,013 41,013
(100)

注)『東京府荏原郡勢一覧』より作成。