市郡併合による新しい区の誕生は、旧町時代よりも権限の縮小を結果したが、それでは住民の税負担はどのように変わったであろうか。

　区民になった住民が、納めるようになった税金は、大きく分けて国税・府税・市税・区に属する市税の四種類であった。このうち、国税が最も比重が大きく、そのなかでは所得税が中枢を占め、地租・営業収益税等が補完的地位にあった。国税の次に多いのは市税であり、その上位は家屋税と所得税の各付加税が占めていた。府税の中心は所得税と地租の各付加税、その他雑種税であった。区に属する市税は先に見たとおりであるが、国税所得税割・国税営業税割・府税営業税割・府税雑種税割・府税家屋税割の五種からなっていた。たとえば、昭和七・八・九年度の品川区民のそれぞれの税負担額をあげると、第163・164・165表のとおりであった。かつては町税一本だった税金が、市税と区税と二本立てになった上に、実質的な負担においても重くなった。新しく区民になったものの税金がふえてしまったと、こぼすものも少なくなかった。これは市郡併合が民衆にとって一体どんな意味があったのかを判断するための一つの素材であろう。