(イ) 公益質屋

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 ただ一つの公営施設

 公営の施設にはどのようなものがあっただろうか。公営の施設がどのくらい充実しているかによって、国や東京市、あるいは品川・荏原地域の各町村の、貧困問題にたいする認識の程度がおしはかられるのであるが、残念ながら当時の実情は、きわめて粗末なものであるという外なかった。

 公営の施設としては、市設の公益質屋がただ一つである。大井町質屋という名で省線電車大井町駅の近くに、昭和六年十二月十五日に開店した。公益質屋といわれる特徴を、当時のビラからみると次のようにかかれている。

 第一に、貸付の場合に普通貸付(一口一〇円、一世帯五〇円まで)のほかに、制限外貸付(一口二〇円、一世帯一〇〇円まで)と、生業資金貸付(一口五〇円、一世帯三〇〇円まで)があること

 第二に、簡易敏速に利用できること(始めて取引をなさろうとする方は、左のものをお持ちになればすぐお貸しします)。

イ 現住所と氏名とを確かめさせるもの。例えば家賃とか敷金とかの請取書類と、最近に来た手紙類。

ロ 印。認印でさしつかへありません。

第三に、利子が安いこと、一〇円で一月一二銭五厘の割。但し厘位以下は切捨てます。

 第四に、利子計算方法が合理的。満月計算ですから。例えば一月二十四日に入質すれば二月二十四日迄が一月、二月八日までが半月(十六日未満)。

 第五に、流質物の取扱方法が合理的。

イ 高く売れば余った分はお客様にお返しします。

ロ 流期が来てもまだ売払ってなければ元金と利子さへお持ちになれば受戻しができます。

 大井町質屋の利用況状は、開店当時でみると、一日平均一五件から二〇件ぐらいである。一ヵ月にすると、六〇〇件前後利用されている。庶民の家計にどの程度寄与しただろうか。


第131図 公益質屋