産業報国会

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戦争が拡大するにつれて、労働組合などの組織的な運働が後退していった。とくに労資一体の産業報国会がつくられ、産業報国運動が全体の傾向となっていった。品川区・荏原区でもおもな事業所には産業報国会が設立された。名称・所在地などは次の表のとおりであった。

第183表 産業報国会一覧

昭和十七年版『産報年鑑』野田経済研究所著 昭和十七年三月三十一日刊(第三部全国単位産業報国会名簿より)

名称 会長 氏名 所在地
(荏原支部)
  東交試験機製作所産報会 斎藤由蔵 荏原区荏原一ノ四六二
  不動産報会 山中松五郎  〃 小山台一ノ六一
  協栄産報丸中ローソク製作所 山崎浅一  〃 小山二ノ四四〇
  東京瓦斯株式会社荏原営業所産報会 竹内徹二  〃 平塚三ノ七二二
  八幡産報会 松井康文  〃 東戸越三ノ一〇六四
  株式会社戸越精機製作所産報会 沢井佐美  〃 平塚一ノ五五〇
  中原産報会 野川順一  〃 平塚一ノ五四二
  日本ゴム工業株式会社産報会 大村博  〃 平塚三ノ七六八
  東京電燈株式会社小山営業所産報会 姫野寅之助  〃 小山三ノ九
  三谷産報会 土田国松  〃 小山三ノ八三
  ゼーオー螺旋製作所産報会 小野重左衛門  〃 小山三ノ一一〇
  株式会社三栄製作所産報会 堀内猪之助 荏原区小山五ノ八八
  金鵄産報会 高梨八三  〃 小山五ノ三〇四
  合名会社堀内製作所産報会 堀内幸松  〃 荏原四ノ一七三
  中央産報会 清水誠治  〃 荏原四ノ一九五
  平塚産報会 伊藤喜作  〃 平塚三ノ六八九
  合名会社田中製革所産報会 田中謙  〃 荏原一ノ二九八
  東洋酸素機械株式会社産報会 石川龍雄  〃 小山一ノ三八〇
  日の丸産報会 佐久間章公  〃 二葉町六ノ三八〇
  株式会社大興電機製作所産報会 古川梅三郎  〃 西中延四ノ一二八八
  電機工業株式会社産報会 水島周平  〃 平塚四ノ二三七
  親和産報会 本幡敏  〃 西中延五ノ一二三三
  三和産報会 海老沢正  〃 東中延一ノ三二二
  藤倉航空工業株式会社産報会 関口善吉  〃 荏原二ノ二六二
  日満工業株式会社産報会 後藤元治  〃 小山六ノ四二六
  富士光材製造株式会社産報会 溝尻房蔵  〃 小山台二ノ一二八
  松本電機製作所産報会 松本亀次郎  〃 豊町四ノ二七一
(品川支部)
  東光電気産報会 柏木秀一 品川区北品川五ノ八四五九
  東洋製缶株式会社産報会 堀越一三  〃  〃 五ノ四八四
  南品川相互産報会 浅田常五郎  〃 南品川五ノ五一
  株式会社岡田電気商会産報会 岡田悌蔵  〃  〃 三ノ一五六一
  中島電機製作所産報会 中島勝五郎  〃  〃 四ノ五八一
  ヂーゼル自動車工業産報会 弓削靖  〃 東品川五ノ六一
  品川精機株式会社産報会 砂長谷哲夫  〃  〃  四ノ一〇
  高速機関工業産報会 堤和雄 品川区東品川五ノ五〇
  株式会社大塚製作所産報会 大塚伊三郎  〃  〃 四ノ五
  南品川第一産報会 池田倉太郎  〃 南品川一ノ九四七
  日本特殊工業株式会社産報会 沼川佐吉  〃 東品川四ノ三五
  株式会社日本化器製作所産報会 大来修佐  〃 北品川五ノ四二八
  日本高周波重工業産報会 菊地麟平  〃  〃 五ノ四九三
  明治ゴム産報会 田路胤夫  〃  〃 三ノ二五八
  株式会社品川製作所産報会 武鶴次郎  〃  〃 五ノ四二一
   〃  東京衡器製造所産報会 古庄五男  〃  〃 四ノ五一六
  陸王内燃機株式会社産報会 塩原禎三  〃  〃 三ノ二八七
  株式会社明電舎産報会 飯田歌吉  〃  〃 二ノ七五〇
   〃  小糸製作所産報会 小糸源六郎  〃 東品川四ノ二六
  三共株式会社産報会 鈴木芳太郎  〃 西品川一ノ八八八
  日下製作所産報会 日下武一  〃  〃 二ノ一一〇九
  友田製薬産報会 友田〓三郎  〃  〃 二ノ一一一四
  菅沼研究所産報会 菅沼整  〃  〃 四ノ一〇一七
  西品川中央産報会 白川幸作  〃  〃 五ノ九六六
   〃 産報会 野村市造  〃  〃 四ノ九二三
  富士工業株式会社産報会 池田権次郎  〃 東品川四ノ四二
  明石産報会 明石和衛  〃  〃 五
  品川燃料株式会社産報会 安宅武  〃  〃 四ノ四
  奥田航器産報会 奥田寅蔵  〃  〃 四ノ三三
  東京ラジエータ製造株式会社産報会 池貝秀雄  〃  〃 五ノ八
  斎藤鉄工所産報会 斎藤富造  〃  〃 四ノ四六
  東京特殊鋼産報会 志水懐民 品川区東品川四ノ一六
  井桁硝子工業所産報会 井桁亮  〃  〃 四ノ二五
  理研電機製造水力機部品川工場産報会 林俊一  〃  〃 四ノ三四
  東京〓工業産報会 岩下和策  〃  〃 四ノ一一二
  板下電気歩□会関東分会第二支部産報会 松下幸之助  〃  〃 五ノ二四
  日産金属工業所産報会 崎浜朝恭  〃  〃 四ノ七四
  株式会社十南鉄工所産報会 十南一夫  〃  〃 四ノ二七
  東亜製作所産報会 斎藤源作  〃  〃 四ノ八〇
  株式会社河田製作所産報会 河田兼治  〃  〃 三ノ二ノ二
  株式会社芝浦合金鋳造所産報会 鈴木文二  〃  〃 四ノ三〇
  木下商会産報会 木下連作  〃  〃 四ノ一七
  日本電球工組合連合会産報会 清水茂夫  〃  〃 五ノ四六
  日本自動車工業株式会社産報会 神戸利八  〃  〃 四ノ八
  栄養化学工業株式会社産報会 鈴木亨三  〃  〃 四ノ二五
  品川運輸産報会 戸谷富佐雄  〃  〃 四ノ一三
  大正製作株式会社産報会 計見正治  〃 南品川四ノ五〇五
  日本ペイント株式会社産報会 秋山安蔵  〃  〃 四ノ六〇〇
  扶桑電球株式会社産報会 林道雄  〃  〃 五ノ六七
  宮寺石綿理化工業株式会社産報会 官寺良寛  〃  〃 五ノ二四
  南品川一丁目産報会 相川常松  〃  〃 一ノ二四四
  南品川三丁目 〃 千代三次  〃  〃 三ノ一四九
  南品川四丁目 〃 中村菊太郎  〃  〃 四ノ五〇七
  三菱鉱業研究所大井分会産報会 岡本正常  〃  〃 六ノ一二七二
  東洋製菓株式会社産報会 長谷川亀楽  〃 北品川四ノ七四六
  菅原電気産報会 菅原卓 品川区北品川五ノ四八二
  金剛産報会 屋代勝  〃  〃 一ノ一二〇
  東京工作機製造株式会社産報会 井上弥三郎  〃  〃 四ノ五三一
  小島印株式会社産報会 森江有三  〃  〃 四ノ六五五
  日本夜光産報会 上田良武  〃  〃 四ノ七一五
  日本光音 〃 山田英吉  〃  〃 四ノ五六四
  中興電気 〃 神谷貞夫  〃  〃 五ノ四八七
  大東電気 〃 東条虎輔  〃  〃 四ノ五四四
  帝国電気 〃 鈴木隆晴  〃  〃 四ノ五三六
  鈴達電機製作所産報会 鈴木達雄  〃  〃 三ノ一九五
  北品川第一産報会 小柳米一  〃  〃 三ノ二四一
  小関産報会 山峯政治  〃  〃 四ノ六七四
  袖ケ崎産報会 宮下祐次郎  〃  〃 五丁目

原注 (一) 名簿記入順序ハ単位産報会名、同会長氏名、所在地名ノ順。
   (二)都合ニヨリ壱百名以下ノ会員ヲ有スルモノハ省略シタ。

 しかし、挙国一致、聖戦遂行のたてまえの産業報国会のもとでも、労働者のたたかいの火は完全に圧殺することはできなかった。組織的ではなく散発的であったが、現品川区地域でも労働紛争が、しばしば起こった。

 たとえば昭和十六年四月十一日、品川区大崎本町二ノ四二三の帝国合成工学株式会社で、新重役就任に不満をもつ会計課長が中心となり、労働者一七名全員が三日間のストライキが起こした。大崎警察署はただちに指導者二名を検挙した(昭和十六年五月六日警察・消防署長会議での特高部長口演)。

 また、荏原製作所でも産業報国会のもとで紛争が起こったが、たちまち指導者は検挙された。しかし、その紛争に居合わせ、検挙されていく指導者の姿に、闘う人間の尊厳さをみた一少年工は、会社の役員や権力者たちの言っているのとは違う世界を直感した。かれは、結核に倒れて闘病生活のなかで敗戦を迎えた後、結核療養所の民主化闘争に立ち、都患同盟、日養同盟を組織していった。戦時中の産報という抑圧が、戦後の民主化闘争の火種をつけた一つの例であった(「小島貞雄氏談話速記録」)。