切り倒された桜の木

732 ~ 732

昭和十九年春、永い間、国鉄大井工場の名物だった桜の木が、つぼみもふくらんだときに、無残にも全部切り倒されてしまった。当時の大井工場の笹村工場長あてに、「この重大時に花見をしているとは何ごとか」という投書が、しきりによせられたためであった。桜は日本の代表的な花として、日本人に親しまれてきたのではなかったか。それさえ切り倒してしまえという一部の狂信的な聖戦遂行論者が、社会を支配していた。工場長も、結局は投書の主に迎合してしまった。人心は、それほどすさび切っていた。当時の象徴的事件であった。