ドッジラインは地方団体を形式上独立の自治体として認め、財政的には国税と地方税を明確に区別して、地方税を住民直接税を中心に負担させるものであった。そのため、六三制義務教育の実施は地方自治体が負担しなければならなかったように、国政事務の委任事項がふえ、二十三年九月の都税条例の全文改正により、既存の科目の賦課率がほとんど二倍から六倍程度引き上げられたのである。しかし、財政事情は必ずしもおいそれとは好転しなかった。やがて、この地方税法の第三次改正に続いて、二十四年五月には、地方税収入の拡大のために一部改正が実施された。四次にわたる地方税法の改正によって、税収入は飛躍的に増大し、特別区の財政的基礎が、しだいに固められようとした。
だが、ドッジラインに適応した根本的な財政条件は、二十四年五月に来日したシャウプ使節団によって勧告された税制改革によってはじめてととのえられた。このシャウプ勧告にもとづく地方税制改革の特色は、地方税を約三割増加させて地方収入における比重を引上げ、地方自治の財政的基盤を確立したことにあった。
シャウプ勧告による地方税体系の改正は、地方税の増加分を市町村税にふりむけることと、従来の地方税付加税主義を廃止してすべて独立税で構成することにあり、都道府県税は付加価値税(事業税にかわるもの)と入場税および遊興飲食税の三税を主要税目として、特別区および市町村税は住民税および固定資産税(地租家屋税にかわるもの)を中心に構成された。
このシャウプ勧告にもとづいて、昭和二十五年八月、地方税法の根本的な改正が実施された。この改正によって、国税・地方税・市町村税がはっきり区別されることになり、地方税の独立性を弱めがちなものはすべて廃止された。区税においては都税付加税が廃止され、独立税のうち、舟税・金庫税が廃止された。その代り、新しく接客人税がもうけられ、とくに住民税は都民税が廃止されて特別区民税一本にまとめられた。課税対象も法人にまで拡大され、税額も大幅に引きあげられて、これ以後、区歳入の主要財源となった。品川区における税制改正以後の税の種類は別表のとおりである。
種目 | 課税物件及び納税義務者 | 課税標準 | 課税単位及び税率 | 納期 | |
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特別区民税 | 1. 区内に住所を有する個人(前年に於て所得を有しなかった者及び生活保護法の規定による生活扶助を受ける者を除く) | 前年の所得 | 100分の18+800円 | 第1期7月 第2期9月 第3期12月 第4期翌年2月 |
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2. 区内に事務所事業所又は家屋敷を有する個人で区内に住所を有しない者 | 800円 | (昭和25年度分については | |||
3. 区内に事務所又は事業所を有する法人又は法人でない社団若くは財団で代表者若しくは管理人の定めあるもの | 2,400円 | 第1期9月 第2期11月 第3期26.1月) |
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自転車税 | 自転車に対しその所有者 | ||||
1. 2輪車 | 1輛につき | 年額 | 200円 | (昭和25年度分は5月を10月) | |
2. 3輪車 | 〃 | 〃 | 300円 | ||
荷車税 | 荷車に対しその所有者 | ||||
1. 荷積牛馬車 | 1台につき | 年額 | 800円 | (昭和25年度分は5月を10月) | |
2. 荷積大車及び大型リヤカー | 〃 | 〃 | 400円 | ||
3. 荷積小車及び小型リヤカー | 〃 | 〃 | 200円 | ||
接客人税 | 芸者ダンサーその他これに類するものに対しその従業地に於て課する | 1人 | 月額 | 100円 | 毎月1日より25日まで(昭和25年度9月分に限り10月1日まで) |
使用人税 | 家事使用人に対しその従業地に於てその使用者に課する | 1人につき | 年額 | 500円 | (昭和25年度分は5月を10月) |
(1人を増す毎に逓額200円を加算) | |||||
犬税 | 畜犬に対し飼育地に於てその所有者 | 1頭につき | 年額 | 300円 | (昭和25年度分は5月を10月) |
このように、度重なる税制の改正によって、ようやく地方財政は安定して戦後改革による地方自治が軌道に乗りはじめた。昭和二十四年の区税収入一億四、八〇〇万円から昭和二十五年には二倍近い二億八、五〇〇万円と飛躍的に増大した。それにともなって歳入額も倍増して、財政の基礎である財源の確保が達成できたが、同時に区民の税負担はよりいっそう増大し、とくにシャウプ勧告による税制改正によって、一人当りの負担は約二・五倍となったのである。