品川区の商業戸数は昭和三十年代に入ってから三十五年ころまでは、さしたる変化を見せなかったが、三十五年以降になると、その増加がいちじるしく、三十五年の約九、〇〇〇軒から四十一年の約九、九〇〇、四十四年の一万〇五〇〇、そして四十七年には約一万一五〇〇と十二年間におよそ二、五〇〇軒、三〇%に近い増加率を示している。
しかし、表219を見ると、その増加の度合は業種によって異なっており、増加のいちじるしい業種がある反面、停滞あるいはかえって減少している業種もあって変化に富んでいる。そのうちで増加のいちじるしいものは、卸売業と飲食店で、それぞれ三十五年の軒数に較べて、四十七年には前者が約二倍、後者が七〇%に近い増加を示している。それに対し衣類関係の業種は、三十八年を最高としてその後は減少、家具類は四十一年、飲食料品業も四十四年以降は減少していることがわかる。
年次 | 昭和35年 | 昭和38年 | 昭和41年 | 昭和44年 | 昭和47年 | |||||
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種類別 | 事業所数 | 従業者数 | 事業所数 | 従業者数 | 事業所数 | 従業者数 | 事業所数 | 従業者数 | 事業所数 | 従業者数 |
総計 | 8,884 | 40,400 | 9,327 | 45,718 | 9,887 | 52,326 | 10,512 | 55,065 | 11,514 | 66,998 |
卸売業 | 1,031 | 9,794 | 1,273 | 12,863 | 1,386 | (16,699) | 1,423 | 16,791 | 1,994 | (27,797) |
織物衣類 身のまわり品小売 |
1,078 | 4,302 | 1,160 | 4,747 | 1,139 | 4,801 | 1,105 | 4,683 | 1,093 | 4,366 |
飲食料品小売 | 2,620 | 9,156 | 2,657 | 9,473 | 2,640 | 10,073 | 2,715 | 10,528 | 2,642 | 9,809 |
飲食店 | 2,124 | 9,985 | 2,227 | 10,460 | 2,655 | 12,438 | 3,103 | 13,216 | 3,561 | 15,075 |
自動車・自転車等小売業 | 106 | 249 | 87 | 188 | 87 | 180 | 121 | 836 | 141 | 1,184 |
家具・建具 什器小売 |
596 | 2,209 | 620 | 2,659 | 628 | 2,531 | 617 | 2,428 | 585 | 2,356 |
その他の小売 | 1,321 | 4,198 | 1,294 | 4,871 | 1,338 | 4,828 | 1,417 | 5,607 | 1,488 | 5,311 |
( )は推計数値
卸売業のいちじるしい増加は、西五反田七丁目に昭和四十五年東京卸売センターが開設され、都心部各地の卸売業者が、集団でこのセンターに移転開業した結果生じたものであって、西五反田七丁目の卸売業戸数は、四十三年の一九戸から、四十七年には一躍三二三戸へと増加を示している。また、飲食店の増加は、区内各地域の盛り場周辺でみられるが、地区別には荏原地区が最高であり、これに次いで大崎・大井・品川地区の順になっている。このように見てくると、品川区の商業の四十年以降の動向は、いっぱん小売商業に関しては、その戸数、従業者ともにほとんど変化が見られないことによって示されるように、むしろ全般的には、停滞気味の傾向にあるといってもよいであろう。
これは品川区の人口数が最近停滞から減少に転じた結果、購買力に限界が生じてきつつあることや、区内に新宿・渋谷に匹敵する副都心的な商店街がなく、それより一段階層的に下に属する小商業中心地が、互いに区内の商圏を競い合っているのが現状であり、そのため近隣地区からの購買客の吸引力も乏しい点などをあげることができよう。また逆に、都営地下鉄の開通、京浜線の地下鉄との接続等、都心部との交通機関の改善が進み、区民の足が銀座・日本橋などの都心部の大商店街に向かう傾向を助長する結果となったことなども、その原因としてあげられよう。従って、その業種も日常生活に必要な最寄り品の販売が主であり、買回り品でも高級品より中級品・大衆品が主体である点も、特徴としてあげることができる。
商店の規模別統計をみるとその零細性を知ることができるが、従業員の数によってこれら商店を分類すると、従業員一~二人が全体の四四%、三~四人が三一%、五~九人が一七%であって(昭和四十三年)、これら九人以下の従業員の商店で全体の九三%余りを占めることになり、また従業者別にみても、九人未満の商店従事者数は六一・七%であり、平均一軒の従業者数は四・七人となる。
つまり、品川区の商業の主体は、多数の零細な小売商店であり、それが区内各地に点在する小商店街を核として、全区的に散在して分布し、近隣の住民を顧客として、日常の生活必需品を販売しているということができよう。