品川区工業の構造

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品川区の工業は、昭和三十年代になると、わが国経済の高度成長に呼応して急速な発展を示した。

 これを工業統計調査の資料によって眺めると、工場数では昭和三十年の二、七六四工場から漸次増加をしめし、昭和三十六年には四、一九七工場、昭和四十一年には五、二八四、そして四十四年には五、五三三工場と十余年あまりの間に約二倍の増加を遂げている。

 また、出荷額の伸びも大きいが、これを一工場あたりの出荷額から見ると、昭和三十年の二、四〇〇万円から、三十五~四十年代には六、〇〇〇万円内外、四十年代に入ると四十二、三年急に上昇して、八、五〇〇~九、〇〇〇万円台となり、三倍以上の伸びを示している。

 しかし、従業員数の点でこれを見ると、三十年の五・七万人から三十六年までは激増して一〇・九万人に達するが、それ以降は減少に転じ、昭和四十四年には九・一万人、四十五年には八・四万人と漸減の傾向を続けていることが特色である。

 ところがすでに三十年代、敷地的にはほとんど飽和状態ともいえるこの地域での、このような工場数の増加は、しょせん小工場が多数設立された結果生じた現象である。


第188図 工場従業員数の変化 事業所,従業員1人当り出荷額の推移

 これは工場規模別変化のグラフで、工場の増減を見るとその様子がよくわかる。

 すなわち、三人以下の家内工業ともいってよい工場は、三十年の約一、〇〇〇工場から、四十四年には約一、七〇〇工場と七〇%の増加を示し、また、四~九人の工場は三十年の約三〇〇工場から、四十四年には一、二〇〇工場に近く、約四倍の増加をとげ、一〇~二九人の工場は、約四三〇から五〇〇工場へと、一五%以上の増を示している。そして、三十年には、九人以下の工場が約五六%であったものが、四十四年には約七二%と大幅に増大し、それに一〇~二九人を含めると、実に九一%が小工場によって占められていることとなる。


第189図 全工場および従業員規模別工場数の年度別変化


第190図 従業員規模別工場の増減

 それに対して従業員三〇人以上の工場はいずれも昭和三十五、六年頃を最高にして、それ以降は減少の傾向を示していることが知れる。


第191図 100人以上の工場数の年度別変化

 このように品川区の工業は、もとから小工場を主体として成りたっていたものが、高度成長の過程において、ますます小工場の増加をうながし、零細工場の集積地としての性格を強くうち出すにいたっている。そして、工場の分布は戦前には目黒川低地一帯から海岸部、ならびに大井町駅近辺に限られていたものが、戦時中から戦後におよぶと広く全区にわたって広がり始め、とくに、かつては住宅地域であった荏原地区も、今では多数の小工場が点在する工場密度のきわめて高い地域へと変貌するにいたっている(地図統計集四〇~四五ページ工場分布図参照)。

 区の工業を業種別に見ると、圧倒的に多いのが電気機械器具・金属製品、ならびに機械工業の三種類である。電気器具は全工場の約二五%、金属製品は約一九%、機械工業が約一四%(昭和四十四年)で、この三業種で全工場の約半ばをしめており、これに次いで出版印刷・精密機械・運輸機械の業種であるが、これらの業種はいずれも四%以下の工場数であって、三業種には遠くおよばない。


第192図 品川区の主要業種別工場数の変化

 これを出荷額で比較すると、電気機器は全体の三七・一%、機械一一・四%、化学工業一一・〇%、金属製品七・七%、精密機械七%となり、薬品やカメラ等を生産する化学・精密工業が工場数のわりに高い生産をあげている。

 また、従業員数から見ても電気機器は三四%、金属製品一二%、機械一三%という比率を占めている。

 このように品川区の工業は電気器具・金属製品・機械工業の異常な集中を特色とするが、なかでも電気器具工業は世界的に著名なソニーの工場をはじめ、明電舎などの大工場から、小は輸出用クリスマス電球工場まで多彩な製品をあつかっており、そのなかでも通信用機械器具・発電・配電用機械、それに電球の割合が大きく、この三種で約八五%(三〇%・三〇%・二五%)をしめている。

第220表 品川区の産業分類別工場数,従業者数,製造品出荷額(昭和44年)
項目 工場数 従業者数 出荷額(百万円) 一工場当り出荷額(百万円) 従業者1人当り出荷額(万円)
総数 5,533 91,195 478,561 8,649 525
食料品 187 2,924 19,043 10.183 651
繊維工業 43 564 1,282 2.986 227
衣服・その他 113 1,156 4,398 3.892 380
木材・木製品 101 511 1,488 1.473 291
家具・装備品 151 1,071 4,263 2.823 398
パルプ・紙類 125 1,349 5,481 4.385 406
出版・印刷 301 6,023 32,697 10.863 543
化学工業 43 4,781 52,766 122.712 1,168
石油・石炭製品 2 262 1,943 97.138 742
ゴム製品 35 1,042 4,367 12.477 419
皮革 27 192 638 2.361 332
窯業・土石製品 65 1,022 5,164 7.945 505
鉄鋼 30 528 2,324 7.745 440
非鉄金属 84 1,100 6,333 7.540 576
金属製品 1,066 10,803 36,832 3.455 341
機械 784 11,892 54,527 6.955 459
電気機械器具 1,406 31,297 177,311 12.611 567
輸送用機械 154 3,304 13,671 8.877 414
精密機械 224 6,286 33,403 14.912 531
その他の製品 592 5,314 20,630 3.485 388

 

 その工場分布は四十年代になると上大崎・大井南部の丘陵部を除いて区内全域におよんでいるといってよいが、三十年の分布と較べると、とくに荏原地区の中原街道・第二京浜国道沿いに、中小工場の著しい増加をみていることがわかる。

 このうち、電球工場の分布は、南品川四~五丁目・東大井一~二丁目・二葉町一~三丁目・豊町三~四丁目にとくに集中して立地しているのが特色であり、中原街道沿いでは、通信機部品工場の多いことが目立っている。


第193図 電球工場の分布(昭和44年)

 金属製品工業には三井金属・三菱金属・東洋製罐など特殊金属・製罐などの大工場もあるが、多くがプレス加工やメッキなどの機械部品を加工する小工場で、それが工場数の約半ばをしめている。戦前、金属工場の多くは主として目黒川流域に集中して立地していたが、昭和四十年代には南大井・荏原地区にわたって広く分布するようになっている。

 機械工業では西大井にある日本光学(精密機械)などの大工場があるが、金属加工機械や自動車部品・光学機械部品などの工場が多くを占めており、その工場分布は金属工業と同様に今では区内全域にわたって広く散在している。

 これら金属・機械工業もその工場の多くは電機工業同様、親企業へ部品を納入する部品下請的小工場が主力をしめており、品川区の工業の構成は、このような多数の小工場とそこに働く多くの労働者群が主体となっているといえる。そして、その動向は景気の変動や、外国為替レートの変化など経済の動きのなかで、つねに揺れ動く姿としてとらえることができるのであり、そこに品川の工業の特色があるといいうるのである。