わが国の国民生活は昭和三十年までに戦前の水準を回復し、それ以後発展・向上の段階にはいった。とくに高度経済成長による所得の上昇を背景に、消費水準は急速に上昇し、その過程で消費構造の変化がみられ、それがまた消費水準の上昇を支えた。消費構造の変化のうちで最も重要であったのは、生活維持のためにどうしても支出しなければならない「基礎的消費」から、支出するか否かを消費者の自由意志で決定する「選択的消費」に移った点であった。その結果、過去にみられなかったような新らしい生活のパターンが展開されることになったのである。
衣食住の衣についていえば、「寒暑を防ぎ身体をおおうだけのもの」から、「美しく着ることを楽しむもの」への変化がみられた(『国民生活白書』昭和四十年版)。とりわけ女性の服飾品については、外国の流行がめまぐるしいほど急速にとり入れられた。昭和二十年代終わりからのHライン・SラインさらにAライン・Yラインといった一連のアルファベット・ラインの流行は、その典型的な例であった。区内上大崎四丁目のドレメー通りは、こうした婦人服の流行が最も敏感に反映する場所であった。また、区内のさかり場の婦人服専門店のショウウインドーははなやかさをきわめ、それは銀座の流行に直結するばかりでなく、パリーその他の外国ファッションにつうずるものであった。
食料についても、その内容はきわめて多様化した。次表(第222表)にみられるように、穀類の占める割合は低下し、肉・乳卵など動物性蛋白質の摂取量が増大し、嗜好品の種類と量が増し、加工食品の普及、洋風食品の増大が顕著となっている。それは「空腹を満たす食事から、栄養と味覚を考えた食事」への変化にほかならない。この変化にならんで、家事労働の省力化との関連から、インスタント食品が普及しはじめ、インスタント=コーヒーがまずその先鋒となり、即席ラーメンによってインスタント食品が生活の中に定着した。
年次 | 30年 | 35年 | 40年 | 構成比 | ||
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項目 | 30年 | 35年 | 40年 | |||
円 | 円 | 円 | % | % | % | |
穀類 | 4,089 | 3,848 | 4,352 | 35.7 | 28.3 | 22.0 |
魚介類 | 1,112 | 1,296 | 1,916 | 9.7 | 9.5 | 9.7 |
肉類 | 550 | 937 | 1,857 | 4.8 | 6.9 | 9.4 |
乳卵類 | 586 | 934 | 1,678 | 5.1 | 6.9 | 8.5 |
豆・野菜類 | 891 | 991 | 1,962 | 7.8 | 7.3 | 9.9 |
乾物海草類 | 155 | 258 | 1.4 | 1.9 | ||
加工食品 | 881 | 1,134 | 2,777 | 7.7 | 8.3 | 14.1 |
調味料 | 853 | 897 | 7.5 | 6.6 | ||
菓子果物 | 1,179 | 1,457 | 2,229 | 10.3 | 10.7 | 11.3 |
酒類 | 456 | 606 | 878 | 4.0 | 4.4 | 4.4 |
飲料 | 187 | 317 | 634 | 1.6 | 2.3 | 3.2 |
その他 | 2 | 0 | 0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
外食 | 507 | 944 | 1,455 | 4.4 | 6.9 | 7.4 |
食料費合計 | 11,448 | 13,619 | 19,738 | 100.0 | 100.0 | 100.0 |
(参考 エンゲル係数) | 48.7% | 43.5 | 38.1 |
(備考) 総理府統計局「家計調査」による.