昭和三十四年一月からは、NHK教育テレビが開始され、学校放送がおこなわれるようになった。そのためテレビが学校教育における重要な教材となったが、それを購入するだけの予算のない小学校では、購入費の捻出に苦心した。『読売新聞』の報道によれば、品川区立立会小学校では、全校児童約一、二〇〇人が古新聞を学校に持ちより、それを売って受信機を購入した(昭和三十四年一月三十一日号)。同紙には、同校の職員室で、新しいテレビに見入る児童の写真がのせられている。
しかしながら、その後二月三日品川区教育委員会は、「最近テレビなど教材購入を名目にした廃品回収や学校創立記念事業などの寄付が多く、父兄から強い不満の声であがっている」ことを理由に、区内の小中校長に無理な教材購入をやめるよう通達した。このことは、テレビの急速な普及と社会の現実との間に生じたギャップを物語るひとつのエピソードとみることができるであろう。
テレビの普及率が三〇~四〇%に達すると、テレビ番組が人びとの共通の話題となる可能性が生じてくる。ことに、児童の場合には、連続ドラマの筋や、その見通しなど、テレビ番組の内容が恰好の話題となった。従って、テレビのない家庭の子は、そのような話題から疎外され、その疎外感は劣等感にさえなる場合が少なくない。このような現象は、たんに児童ばかりでなく、おとなにも大なり小なり共通のことであった。こうした心理が、この時期におけるテレビの急速な普及を促進した最大の原因であったかも知れない。