テレビの影響が区民の生活に大きな波紋を投げかけたのは、まず児童に対してであり、そのことは当然母親たちの大きな関心のまととなった。品川区教委と同区新生活運動推進委、都教委などの主催で、昭和三十九年十一月二十六日、品川文化会館でおこなわれた「家庭と社会を明るくするつどい」の「マスコミと家庭生活」分科会では、テレビとこどもの関係が母親たちの最大の話題とされた。その分科会では、「テレビのきわどい場面や忍者ものなどでは、こどもに与える悪影響が大きく、『忍者ごっこのふくみ針をまねてビョウを飲みこんだ』『吹き矢遊びでカナリアを殺してしまった』(小山台・主婦)などの例がのべられた」と新聞は報じている(『朝日新聞』昭和三十九年十一月二十七日)。
こどもたちがどれだけの時間テレビを見、またそれと学習との関係はどうかという点について、区内のふたつの婦人学級グループが調査を実施し、その結果を三十九年十二月五日発表している。第一に、鮫浜小学校の「わかばグループ」による視聴時間調査によれば、「ウイークデーでも三~五時間というのが八〇%を占め、日曜になると七~一〇時間が三〇~四〇%」であり、テレビが「家庭生活にこれほど大きな部分を占めていたとは思いませんでした」というのが、調査に当たった母親たちの感想であった。またこの調査によれば、こどもたちが最もよく見る番組は、「男子がマンガ、女子がドラマ」であり、視聴率の高いのは、「ドラマなら『うず潮』、マンガでは『エイトマン』、外国映画では『チビッコ大将』、『ララミー牧場』など」である(『朝日新聞』昭和三十九年十二月六日)。
立会小学校の「めだかグループ」は、児童の学習とテレビの関係を調査したが、「学校から帰って、宿題とテレビとどっちが先になるか」という点では、「宿題が先」が六〇%近くを占めている。しかしその理由は、「宿題をしないと、落着いてテレビを見られないから」であり、宿題をしながらテレビを見るというものも二〇%に近いという。この調査でも、テレビの児童の行動や態度への悪影響が指摘され、その第一は「ことば」、第二が「就寝が遅くなること」とされている(『朝日新聞』同前)。
以上のことから明らかなように、テレビの家庭生活への浸透はきわめて顕著であり、生活のなかに占めるテレビの地位は大きなものとなっていった。ラジオを聴きながら勉強するいわゆる「ながら族」が、テレビについてもいえるのは、先の調査にもみられるとおりであり、それによれば、「にぎやかでないと勉強に気分が出ない」という児童も少なくないという。このことは、こどもの勉強部屋もない比較的狭い住宅条件のなかで、テレビが家庭の茶の間に進出した場合にさけがたい問題でもあったのである。