品川区内にみられる比較的小規模な団地として、都営住宅や公団住宅とは別のいわゆる社宅団地がある。都営住宅のなかには、交通局や衛生局の職員の居住するものもあるが、特定の会社や公社の従業員のための給与住宅が、団地を形成している場合がそれである。品川神社の北、北品川三丁目の一角の通称権現山とよばれる地域には、以上のような社宅団地が数多く形成されている。住友銀行北品川寮・横浜ゴムKK品川社宅・日立製作所御殿山ハウス・日立電線御殿山アパート・東電北品川社宅・日本住宅公団社宅・日本電信電話公社北品川アパートなど、おそらく都内でもこれだけの社宅団地が集中している例は、あまりみられないであろう。それぞれの団地の規模は、十数戸からせいぜい七〇戸ほどであって、鉄筋中層のアパートが多い。
これらの小規模な団地の付近には、高層の高級マンションがいくつか新築されているが、この地域が住宅地としての環境に恵まれた場所であることを物語っている。
これらの社宅団地には、先にあげた公営団地とは違って、同一の職場に働く人びとが居住しているだけに、その住民意識にも、いわゆる「団地族」一般とはやや趣を異にした面が認められる。
昭和四十年七月に品川地区の住民についておこなった意識調査のうち、「向こう三軒両隣りに不幸があった場合、お宅はどうしていますか」という質問に対して、北品川三丁目の給与住宅居住者の答えは次のとおりであった。
(イ) 「葬式かお通夜に顔を出す程度でそれ以上の事はしない。」―五一%
(ロ) 「とり込みで大変だろうから手伝いをする」―四一%
(ハ) 「特に何もしない」―八%
地区全体では、二四%にすぎない(ロ)の答が、ここで四〇%を超えている点、注目すべきであろう。一般の団地とは違って、職場における人間的なつながりが、居住地にまでもち込まれることから、右のようなことになるのであるが、この種の団地における近隣関係は、比較的親密なものとなりやすいのである。
しかしながら、この場合においても、住民の現住地に対する帰属意識は必ずしも強いとはいえない。そのことは、同じ調査における「現在住んでいる場所にこれから先ずっと住むつもりですか」という設問への答えから判断することができる。その答えは次のような比率を示している。
(イ) 「住みよいからずっと住むつもりである」―二八%
(ロ) 「不満な点は改善してずっと住むつもりでいる」―一一%
(ハ) 「他に移りたいがやむなく住んでいる」―一四%
(ニ) 「もっとよい所に移るよう準備している」―二五%
(ホ) 「今すぐにも引っ越したい」―五%
(ヘ) 「その他」―一七%
先にも述べたように、北品川三丁目の社宅団地は、品川地区のなかでも住宅環境の良好な場所であるにもかかわらず、この居住地への満足度がそれ程大きくないのは、ひとつには給与住宅が転勤その他の理由で永住の地とは考えられないからであろう。しかし、それ以上に重要と思われるのは、給与住宅の団地の場合には、職場における職制上の人間関係が家庭生活にまでもちこまれる傾向があり、家庭が職場の延長となって、職場からの解放感を十分に味わうことができない点である。