人口の流動

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品川区では、年間約四万五〇〇〇の人口が区外から転入し、五万五〇〇〇人が区外へ転出している。この人口の流れを区内の品川地区について調査した結果は、品川再開発研究会によって第212図のように図式化されている。この「転入転出パターン」は、都内二三区からの転入を一〇%ほど増加させる程度の修正を施すことで、区内全域についてもほぼ妥当するものといえる。


第212図 転入転出のパターン
(注) 本城和彦『地域住民の特徴』(『SD』1970年9月号・特集・地域空間の共同主観性を索めて)

 この人口の流動は、先にも指摘したように、単身または準世帯の形で生活する階層において最も激しい。かれらは、年齢的には若年層であるが、その転入の形態は次のように類型化してとらえることができる。

(1)都外から就職して会社や工場の寮にはいるもの。大部分は若年の工場労働者であり、そのあるものは集団就職の形をとる。

(2)都外から転入し、低家賃の木造賃貸アパートに居住し、その付近に就職先を求めるもの。半数以上は零細工場の労働者、残りは事務職・販売サービス従業者が占める。

(3)家族人数が比較的少なく、(1)・(2)よりも若干高年齢で、コンクリート=アパートの給与住宅に転入・居住するもの。職業的には約三分の一が都内他区の職場に勤務する事務職である。

 このようにさまざまな形で転入した者は、比較的短期間のうちに転出する。その形態はさまざまであるが、転入の型に応じて幾つかに類型化できる。

(1)職場に適応できず、寮生活を放棄して出身地に帰るもの。あるいは転職して他地域へ移るもの。

(2)木賃アパート層は、次のように両極に分解する。一部分は、職業的に安定するにつれてより環境に恵まれた区外へ転出し、一部は、不安定な職業のために生活に破綻を生じ、他区のいっそう劣悪な環境の地域に沈澱していく。

(3)職場における地位の向上と家族数の増加とともに、より良い住宅を求めて、他区または近郊へ転出する。

 これらの転出は、集団就職者が就職後半年足らずで離職していく場合を一方の極とし、数年にして給与住宅から転出する場合を他方の極として、急速に進行する。結婚がこれらの中間にあって、転出に通ずる場合が多い。学生における入学→卒業もまた、以上の人口の流動に拍車をかけるものである。

 品川区の人口構成は、これを人口ピラミッド(第213図)によってみれば明らかなように、男女とも十五歳から増加傾向を示し、四十九歳にかけて大きなふくらみをみせ、生産年齢人口の厚さを示している。この点は、典型的な大都市型の人口構成の特徴にほかならない。ことに、この生産年齢人口のふくらみにおて、年齢別的に最多を示す男二十四歳・女二十二歳の前後数歳の階層こそ、右に述べた人口流動がみられる部分なのである。


第213図 年齢別,男女別人口(昭和47年1月1日現在)
(住民基本台帳により集計したもの)

 しかし、以上のほかに、これらの人口の流動とは趣を異にする人口転出のタイプが品川区人口の動きのうちに見いだされる。それは、年齢的にはより高年齢であり、標準世帯以上の家族を擁し、社会的・経済的にも比較的安定した、区内に自宅を持ついわゆる持家層の区外への転出である。かれらは、大気汚染・交通戦争・騒音等の都市公害に耐えかねて、より良い住宅地としての環境を求めて区外とくに郊外に移転していくのである。区内宅地の地価騰貴は、宅地を所有する持地層の転出をいっそう促進することはいうまでもない。このようにして、区人口の社会的減少の動きはさらに激しくなっていくのである。