品鶴線は、東海道線からわかれて、北品川四丁目から西大井四丁目までの約四キロにわたり、区内を南北に通過して鶴見に至る国鉄貨物線である。国鉄では通勤輸送を増強するため、この貨物線に横須賀客線を乗り入れて、横浜以南の通勤客の輸送を図ろうとしている。区および区議会では、客車乗入れに伴う諸公害から地域住民を守るよう、国鉄をはじめ関係機関と折衝を重ねてきた。区議会では、品鶴線問題にいっそう強力に対処していくため、昭和四十六年九月二十八日の本会議で品鶴線対策特別委員会を設置することを全員一致で決めた。区議会がこのように積極的な取組みをみせたのは、もちろん問題そのものの重要性にもよるが、住民を公害から守るためにいまや区民全体が一丸となった強力な対応が要請されているからにほかならない。品鶴線問題についてのこれまでの経過は次の通りである。(「品川区議会だより」一六号)
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昭和二十三年三月三十一日 「品鶴線旅客電車運転実施方に関する請願」を関係機関に提出した。
同三十五年~三十六年 品鶴線客車乗入れについて品川・大田・横浜・川崎の二区二市による協議体をつくりその促進を図った。
同四十四年五月十六日 品鶴線に横須賀線の客車乗入れについて、国鉄から区に説明があった。停車駅は東京・新橋・品川・新鶴見を予定している。
建設委員会は、国鉄からの連絡事項を検討した結果、次のことを関係方面に要望することを決定した。
一 踏切を立体交差とする
二 区内に一ヵ所駅を設ける
三 振動の緩加に努める
四 電波障害の緩和に努める
五 騒音の緩和に努める
同四十四年五月二十日 要望の五項目の関係から建設・公害・交通住宅委員会が合同委員会を開き、その結果次のことが明らかになった。
一 品鶴線を延長して、総武線と接続する
二 両国・東京・品川駅までは地下鉄とする
三 乗入れ実施の時期は、四十七年十月ごろの予定である
同四十四年六月二十四日 議会は「品鶴線客車乗入れに対する意見書」を議決し、七月四日に運輸大臣と国鉄総裁に提出した
同四十四年八月十五日 建設委員会は、品鶴線の立体交差について東京都に陳情した
同四十四年八月二十一日 建設委員会は区に対し、品鶴線問題について国鉄と折衝するよう要望した。
同四十四年十一月十八日 品鶴線問題について、品川区選出の都議会議員と懇談会を開いた
同四十五年十二月十一日 次の五項目について国鉄と打合わせしている旨、区から報告があった
一 区内五ヵ所の踏切を立体交差とする
二 品川区の南部に駅舎を設置する
三 振動と騒音の緩和を図る
四 ふん尿の放散をしない
五 新幹線等による電波障害を排除する
同四十五年十二月十七日 国鉄から五項目に対する回答があった。
一 立体交差工事の費用負担をできるだけ配慮されたい
二 国電・地下鉄・池上線・田園都市線があるので、それを利用した方が便利である
三 貨物車より振動の影響は少ないと思う
四 国鉄の全体計画としてはタンクの設置を希望している
五 新幹線支社の方でNHKと協力して手を打っている様子なので、今より障害がふえることはない
以上のことからみて、国鉄当局の考えは ①品川区内に駅を設置しない ②立体交差は客車乗入れ後に検討することが明らかになった
同四十六年二月二十五日 国鉄本社に対しさきの五項目を再び要望した
同四十六年七月五日 新聞によると、国鉄は品鶴線客車乗入れに伴い川崎市鹿島田に新鹿島田駅(仮称)を決定していることが、報道されている
同四十六年七月九日 本会議で建設委員長から、次のような報告があった。
国鉄では品川区内の駅舎の設置、踏切の立体化は全く考えていない。区としては道路法に基づき、国鉄に費用を負担させ、立体化または地下を通させる。すべてだめな場合は、建設大臣の裁定までもっていく考えである。駅舎と踏切りの問題が確認できなければ、区としては客車乗入れに反対である。
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品鶴線のもたらす第一の公害は、交通渋滞である。現在一日三八〇本の貨物車が通過するため、踏切道は一時間のうち二〇分は閉ざされる。この上、横須賀線の上下線がラッシュ時で、各三分ごとに通過することとなれば、推定で一時間のうち五〇分は踏切道が閉ざされることになる。区内には五ヵ所の主要踏切道があるので、それらの自動車交通量は現在の一〇パーセントに制約され、交通状況は最悪となる。しかも、このことは、品川区の東西の交流に完全な危機をもたらすわけで、踏切道は各所で麻痺する。経済的・技術的に困難がともなうとしても、品鶴線を立体化あるいは地下鉄化しないで、現状のまま客線化することは、住民の生活を破壊することとなる。ましてや、横須賀線は、品川区以外の区域では、すべて立体化または地下鉄化を進めている。その点を思えば、立体化の要求は決して過大なものとはいえない。
品鶴線の通過している地帯は、区内の住宅過密地帯である。そこを、客車と貨物車が頻繁に通過するならば、沿線に近接している木造住宅やアパート群は、騒音・振動・電波障害に悩まされる。品鶴線に平行して走る新幹線によって、沿線の住民は、すでにそのような公害を体験しているのである。
区内を通過して右のような公害をまき散らす品鶴線の客車乗入れは、区内に駅舎を設けず、区民に何らの便利を与えないように計画されている。しかしながら、品鶴線沿線の住民は現在、ラッシュ時には殺人的な混雑を呈するバス通勤を強いられ、大井町駅か大森駅まで出て国鉄を利用している。区内の国鉄および私鉄の駅を中心に徒歩で一〇分間の範囲を半径七〇〇メートルの円内とすれば、その全円形をはずれる地域は品川区南部である。この地域の通勤客は約三万人と推定され、歩行者の交通安全、バス輸送の緩和、大井町・大森両駅の混雑緩和のためにも、駅舎の設置が望まれるのである。
以上のようなさまざまな問題をはらむ品鶴線問題について、区議会のこれまでの対処の仕方はすでに述べた通りである。とくに先にあげた五項目をひっさげて国鉄はじめ関係機関との折衝を続けてきた。
しかるに、四十八年一月二十六日に開かれた国鉄東京南管理局と都・区側との話合いの席上、国鉄側から ①四十九年四月に客車を乗入れる ②駅舎設置はできず、このことは区や区議会も了承ずみだ、という内容の発言があった。このため区・区議会は、国鉄側の言い分は「寝耳に水」で、なしくずしに乗入れを強行しようとする意図の現われだと強く反発した。
二月七日、権正博(ごんしょうひろし)区議長をはじめ品鶴線対策特別委員会理事四人、区建設部長は、国鉄東京南管理局を訪れ、「住民側が出している乗入れのための三条件を無視するな」と文書で抗議した。三条件とは、①五ヵ所の踏切を立体交差する ②区南部に駅舎を設置する ③騒音・震動など鉄道公害を善処することである。
これに対し、国鉄側は「問題の発言をした覚えはない。しかし、駅舎を設置した場合の利用度など検討すべき点があるので、調査に区側も協力してほしい。五ヵ所の踏切りについては、うち二ヵ所が立体交差のため基本設計にはいっており、二ヵ所は地下道を拡げることで整備できる。残る一ヵ所は地元の反対で測量できない状態なので、住民を説得してほしい。騒音・振動など鉄道公害問題についても善処する」と答えた(『朝日新聞』昭和四十八年二月八日)。
権正議長らは、国鉄側の回答を一応了承したものの、区・区議会では駅舎を設置できない場合、客車乗入れには応じられないとの強い態度を見せている。品鶴線問題は、このようにして、区・区議会・住民の区民ぐるみの住民運動に発展しつつある。