再開発の方式

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これまで述べてきたところから明らかなように、品川区の生活環境は著るしく悪化している。人口密度は高く、建物は密集し、区内に商・工・住混在の地域が分散して地域的まとまりがなく、緑もきわめて少ない。空から区内を見ると、緑のかたまりは戸越公園と池田山・島津山の一部にしかない。さらに、都市公害のあらゆるものが区内に発生している。人口も減少する一方で、いきいきとした活気のある町は区内に余り見いだされない。このままでいけば、品川区はいったいどうなるのであろうか。

 住宅環境の悪化に耐えかねて、品川区から転出していくものは、現在よりもさらに増加していくであろう。一方、現住地に愛着を感じ、また簡単に他に移転することのできない人びとは、悪化する生活環境に甘んじながら、どこからか救いの手ののびるのを待つほかはないかも知れない。そうなれば、区内の住宅地域は、スラム化してしまうであろう。

 もちろん何らかの改善策が行なわれねばならぬし、現実にさまざまな努力が進められている。しかし、品川区の現状のような環境の悪化は、長い間の都市問題の集積の結果であるいわば都市のひずみともいうべきものである。これを是正するには、根本的な地域の改造をくわだてねばならない。たとえば、老朽化した過密住宅地域を改善するには、古い建物を一掃し、その跡にじゅうぶんなオープン=スペースをとった高層建築を建設するのが一策である。そのためには、住民の主体的意識にもとづいた協力と計画が必要となる。また、そのために必要な経費をいかに調達するかも大きな問題である。都市の再開発は、このような、都市のひずみをなくすための、長期的総合的計画によらねばならない。

 都市の再開発計画の実施には、国や都の公共投資にたよる面が大きい。その関係で、再開発計画は、国や都の主導権においておこなわれるものが多い。それにはそれなりの長所があるけれども、ともすると、それは上からのお仕着せ的な計画として、末端の地域の要求に一致しないことがある。そのため、計画の実施に支障をきたすことも少なくない。

 このような弊害をさけるために、計画立案の段階から、地域住民の参加ないしはその主導権において、再開発を進める方式が採用される。それこそが、住民主体の再開発の方式にほかならない。それは、再開発が問題となる地域住民がその地域に住みつづけることを原則として考え、住民の主体的協議によって、権利の調整および建設が行なわれる方式である。従って、改革は漸進的なものとなり、その地域の歴史的な都市構成と、人間関係の良さは存続される。つまり、その地域のなかに蓄積されてきた諸要素(たとえば意欲・経済力・人間関係等のエネルギー)を開発の原動力として推進される再開発こそ、住民主体の再開発にほかならない。

 ニュータウンや住宅団地の形成のように、新しい土地に住宅を造成する場合には、公共団体の占める比重が大きく、住民の占める部分は、開発計画の補助的機能を果たすにすぎない。また、都市中心部における再開発の場合には、政府や大企業の中枢機関の建設が主導的役割を果たすので、住民主体の再開発のはいり込む余地はほとんどない。品川区のような、国や都のレベルからの再開発が忘れられている都心周辺区部には、都心部におけるような中枢機関の建設は少ないので、都心部のような形での環境整備は期待できない。従って、再開発への始動も計画の樹立も住民主体としておこなわれねば、生活環境の改善・整備は望むべくもないのである。ところで、品川区における再開発の現状はどうか、以下その歴史的端緒から考察を進めたい。