近年、区民の皆さんの郷土の歴史や文化財に対する関心が、とみに高まってきております。一方、都会に生活する私達の日常の寂りょう感が、日に日に強まっていることから、豊かな人間性の回復が強く求められてもおります。個人の生活が、地域社会にとけ込み、新しい都市生活の創造にはげむということは、そう簡単なことではありません。都会であればあるほど、人間と自然、人間の文化とその遺産が、不変のものとして求められてくるのです。
都会の中にふるさとがあり、また、ふるさとを私達の手で大切に守ってゆこうという気持が、歴史、文化への関心となってあらわれてきていると思います。
新しい生活と創造を追うだけでなく、古さを知り、その上に築かれた現在の生活をよくかみしめることが、よりよき未来へ結びつくことになるのではないでしょうか。私達の品川を知ること、そのために身近な地域の共通の話題としての郷土史の学習は、日常の生活の中から自然に求められるものといえます。
区では、昭和四十二年からほぼ十年にわたり、品川区史の編さんを行ってきました。この間、刊行された区史は、十編に及ぶ膨大なもので、かつ専門的でした。このため、かねてより手軽な普及版の刊行が要望されていましたが。このたびこのような「品川の歴史」を刊行することができました。これによって、品川区の歴史の概要を理解され、ふるさと品川の新しいコミュニティ作りの一助として、座右に置いていただけるなら、大いに意義あるものとなるでありましょう。
本書を刊行するにあたって、執筆者各位の多大な努力に深く感謝いたしますとともに、資料提供を通して協力してくださいました関係各位に対しまして心から厚くお礼申し上げます。
昭和五十四年三月
東京都品川区教育委員会
教育長 山下坦