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 品川は関東平野の南部に位して、海に臨んだ平坦の地である。早くから人々が居住したことは当然であるが、中世には品川氏や大井氏の根拠地になり、近世には宿場を中心にした農村と漁村とであった。近代になっては、大正の関東大震災以後急速に発展し、近頃では農耕地もなくなり、漁業も姿を消すようになった。代って多くの工場が建てられ、あるいは住宅地となり、海面は埋め立てられて、新しい地域は生れたが白帆の走る海は見ることができなくなった。

 こうした大きな変容のなかにも、私たちの歴史は流れ動いているのである。ことに品川には、複雑な変動があった。古くから今に伝わるものもあるが、新しく入ってきたものもある。ここに住む者にとって、その地の歴史を知り、今日の品川を思い、未来の姿をそこに求めるのは当然のことである。

 その声に応じて、品川区では先に「品川区史」を刊行され、私たちもその編集に参加して、資料編・通史編・続資料編の執筆や編さんに従事した。それらは散逸しかけている文献を探しあてたり、古記録中から珍らしい史料を選び出したり、あるいは考古学的な研究を行うなど、私たち自身にも興味が深い仕事であった。そしてその成果については、多くの方々から十分な信頼を得たものと考えている。

 しかし、何分にも大部なものであるから、区民の皆さんに広く利用していただくことは無理であった。そこで今回、また品川区として簡要な「品川の歴史」の刊行を企画されたのである。そして、かつて区史の編集に関与した者にまた依頼があった。私たちは、前の区史を下敷にして、新しい知見を加えながら、この小冊にまとめあげた。これで十分とはいえないが、品川の歴史の概要は盛りこまれていると思う。

 この本ができるだけ多くの区民の方々に利用されれば、企画された区としても喜ばしいことであるが、私たち執筆者も幸いとするところである。

   昭和五十四年三月

                            監修者  児玉幸多