地蔵の信仰と対照的な信仰に閻魔の信仰がある。閻魔王は冥界の王として十八の将官・八万の獄卒を従え、死者を審判し、その罪の軽重によって種々の苦痛を課するという役割をもち庶民からは畏怖されている存在である。もっとも仏典では閻魔と地蔵は一体で、慈悲(やさしさ)の面が地蔵、峻烈(きびしさ)の面が閻魔と両面を一身でもつものともいわれている。
品川宿では南品川の時宗長徳寺に閻魔堂があり、高さ八六センチメートルの木造の閻魔王坐像が祀られている。毎年一月十六日と七月十六日に閻魔参りといって、宿内の人びとや近郷の人びとは閻魔堂にコンニャクを供え、お参りをしてくるという習俗があり、また大井の北浜川嶺雲寺(東大井二丁目)の境内には、延宝八年(一六八〇)造立の石造の大きな閻魔王の坐像があり、庶民の信仰を受けていた。