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下巻一丁 オモテ
[下巻 一丁 オモテ]
水かけ論
音雪書
干ぬ袖を うらみかへすや ほとゝぎす
霍子
- (注)「水かけ論」
- 両者が自説にこだわって、いつまでも争うこと。また、その議論。
(改頁)
二丁 オモテ
一丁 ウラ
[一丁 ウラ]
河向の喧嘩
青瓐書
詠手と あれば抜のか 舟涼
玉欄水沾澄
- (注)「河向の喧嘩」
- 利害関係が無く、自分には痛みを感じないこと。
(改頁)
[二丁 オモテ]
勝て甲の緒をしめる
心へよ 八分畳の 鰹舟
叚香亭莄洲
- (注)「勝て甲の緒をしめる」
- 勝った時で、も気持ちを引き締めて用心すること。
(改頁)
三丁 オモテ
二丁 ウラ
[二丁 ウラ]
烏を鷺
初虹の 末や嫉の 言葉じち(質)
珋々齋瑔(王ヘンに泉)角
- (注)「烏を鷺」
- 白い鷺を、黒い烏であると言い張る意から、物の道理をことさら言い曲げること。
(改頁)
[三丁 オモテ]
時花(じか)いなりは鳥居でもしれ
青瓐書
きさらぎや しらせもなみの 鳥居先き
大蛟
- (注)「時花いなりは鳥居でもしれ」
- 「時花」は、その季節にふさわしく今を盛りと咲き誇っている花。「いなり」は、稲荷社。神道系の稲荷神社の入り口には通常、多くの朱色の鳥居が建てられていて、稲荷を象徴する。こうしたことから当世の流行は自ずから現れるの意か。
(改頁)
四丁 オモテ
三丁 ウラ
[三丁 ウラ]
鳫(がん)(雁)は八百矢は三文
青蘿書
月宮へ 旅の支度と 冨人数
杏英
- (注)「鳫(雁)は八百矢は三文」
- 三文の矢で八百文の値うちのある雁を射落とすことから、わずかなもとでで大もうけをすることのたとえ。
(改頁)
[四丁 オモテ]
瞽垣覗(めしいのかきのぞき)
月花の 恋て中中 さし枕
仝(同)木自画
- (注)「瞽垣覗」
- 何の役にも立たないこと、やってもむだなことをたとえ。
(改頁)
五丁 オモテ
四丁 ウラ
[四丁 ウラ]
瞽女(ごぜ)の目高
川留や 旅の寐丸の 夏合羽
東洲
- (注)「瞽女の目高」
- 「瞽女」は、目明きの手引きに連れられて、三味線を携えて僻陬の村々を唄をもって渡り歩いた日本の女性の盲人芸能者を意味する歴史的名称。「目高」は物を見る目がすぐれていること。目が高いこと。また、そのさまや、その人。瞽女はものを見る目が優れていることの意か。
(改頁)
[五丁 オモテ]
海道湯漬
青瓐書
まじまじと して居る顔の 蛙哉
午寂
- (注)街道筋で旅人に食べさせる簡単な湯漬飯。さらさらとして淡泊なこと、また、先を急ぐので落ち着かないことから、義理いっぺんで誠意のないこと。また、通りいっぺんのごちそう。
(改頁)
六丁 オモテ
五丁 ウラ
[五丁 ウラ]
盗人を見て縄をなふ
一池書
いたづらに すゝがれぬ名や 柿ぬすみ
岝山宇千杵
- (注)「盗人を見て縄をなふ」
- 日頃十分な備えをしないでいて、事が起こってからあわてて間に合わせの対応にとりかかることのたとえ。
(改頁)
[六丁 オモテ]
けらはらたてばつぐみよろこぶ
をとなしき 嵯峨のさくらや 車僧
牝冲青瓐
- (注)「けらはらたつればつぐみよろこぶ」
- 螻蛄腹立つれば鶫喜ぶ。ツグミを捕らえるのにケラをえさにするところから、一方が怒れば他方が喜ぶ。両者の利害が相反することのたとえ。
(改頁)
七丁 オモテ
六丁 ウラ
[六丁 ウラ]
高野(こうや)六十(ろくじゅう)那智(なち)八十(はちじゅう)
かれこれの 世話もむつかし やまざくら
隠君郎蓮菊
- (注)「高野六十那智八十」
- 高野山や那智山では男色が盛んで、老年になっても小姓を勤める者があるという意。
(改頁)
[七丁 オモテ]
三ツ子のたましい百迄
手には寝ず 蝶にかはゆき 菜種かな
閑々舎止水
- (注)「三ツ子のたましい百迄」
- 年をとっても、幼いころの性格や気質は変わらないこと。
(改頁)
八丁 オモテ
七丁 ウラ
[七丁 ウラ]
奥歯にもの
青瓐書
花紅粉や とすればくもる たてかゞみ
舞鰐
- (注)「奥歯にもの」
- 奥歯にものが挟まったよう、の略。思っていることをはっきりと言わず、隠し事をしている様で、すっきりしないこと。
(改頁)
[八丁 オモテ]
背に腹はかえず
抱花や うしろは修羅の 継子立
角上
- (注)「背に腹はかえず」
- 臓器が詰まったお腹を切られるくらいなら、背中を切られた方がマシだとした意から、大事なものを守るためには、わずかな犠牲を払っても仕方ないこと。
(改頁)
九丁 オモテ
八丁 ウラ
[八丁 ウラ]
海老で鯛
京都尼書
菌担子の 桜に恥よ 人心
白甘字和三
- (注)「海老で鯛」
- 海老で鯛を釣る。少しの元手または労力で大きな利益を得ることのたとえ。
(改頁)
[九丁 オモテ]
豆腐(とうふ)に鉄槌(てっつい)
一池書
勝負せぬ うちが華也 田舎芸
武州村山蛙水
- (注)「豆腐に鉄槌」
- 効き目がないこと。「糠(ぬか)に釘」「豆腐に鎹(かすがい)」と同じ。
(改頁)
十丁 オモテ
九丁 ウラ
[九丁 ウラ]
飴で餅
青瓐書
新道で 折らばや菊の 女中づれ
野州吉田志葉
- (注)「飴で餅」
- すでに美味しい餅にさらに飴をつけて食べるような、話がとても上手く行き過ぎている状況、または極めて好都合な状況。
(改頁)
[十丁 オモテ]
雪の芭蕉
包メども そもや豫譲(よじょう)の 朧月
和律
- (注)「雪の芭蕉」
- 未詳。唐時代の詩人で画人の王維が、雪景色のなかに芭蕉(植物)を描いたという故事に基づくか。芭蕉は、春夏には大きな葉を繁らすが、冬は葉が枯れてしまうことから、雪の中の芭蕉を描くことは、誤り。
- (注)「豫譲」
- ?~紀元前453年頃。中国春秋戦国時代の人物。敗死した主君の仇を単身討とうと試みたが、遂に果たせなかった人(『史記』「刺客列伝」)。
(改頁)
十一丁 オモテ
十丁 ウラ
[十丁 ウラ]
やぶにまんぐは
弌池書
長き夜や 女房もこまる 酒機嫌
九十
- (注)「やぶにまんぐは」
- 「やぶに馬鍬(まぐは)」のこと。「馬鍬」は、牛馬にひかせる耕耘(こううん)用の鍬。生い茂った藪では馬鍬を使って耕すことはできないことから、できないことを無理にしようとするたとえ。
(改頁)
[十一丁 オモテ]
青菜に塩
仇し名の 我身ひとつは 蛍かな
武州扇町露珪
- (注)「青菜に塩」
- 青々とみずみずしい青菜も、塩をふりかけると水分が出て、しおれてしまうことから、元気だった者が何かをきっかけにすっかりしょげてしまうさま。
(改頁)
十二丁 オモテ
十一丁 ウラ
[十一丁 ウラ]
犬と猿
白鳳軒雪岑拝画(印)
御会式の 花に隣りぬ 十夜講
来之
- (注)「犬と猿」
- 仲の悪い間柄のたとえ。犬猿の仲。
(改頁)
[十二丁 オモテ]
うみ柿が熟柿(じゅくし)を訪ふ
雪岑画(花押)
身揚りの あけぼし笑ふ 月見かな
好古
- (注)「うみ柿が熟柿を訪ふ」
- うみ柿も熟柿も同じことから、同類が同類を求める意か。ことわざでは、「青柿が熟柿弔(とむら)う」が一般的。青く固い柿が、隣の熟した柿が地面に落ちたのを弔う。青柿もいずれは熟柿になることから、弔う者も弔われる者も大差はないという意味。少しの差異をたてに優劣をいうたとえ。
(改頁)
十三丁 オモテ
十二丁 ウラ
[十二丁 ウラ]
盗人に負
音雪書(花押)
家土産や 陰のさくらの 藪(やぶ)酒手(さかて)
池永
- (注)「盗人に負」
- 「盗人に追い銭」と同じ意か。盗人に物を盗まれたうえに、さらに銭をくれてやること。損をしたうえに損を重ねることのたとえ。泥棒に追銭。
(改頁)
[十三丁 オモテ]
菩薩は実が入ば俯(うつむく) 人は実が入ば仰ぐ
音雪書(花押)
稲の穂や 普く救ふ 娑婆世界
竹下
- (注)「菩薩は実が入ば俯 人は実が入ば仰ぐ」
- ここでいう菩薩は稲(米)の比喩。稲はみのるほどうつむいて謙虚になり、人は地位が上がり、権力を得ると高慢で尊大になること。
(改頁)
十四丁 オモテ
十三丁 ウラ
[十三丁 ウラ]
坐頭の杖をうしなふ
音雪書(花押)
片枝は 雪におれたり 玉かづら
湖東
- (注)「座頭の杖をうしなふ」
- 「目くらのつえをうしなふごとし」と同じ。頼りとするものを失ってないことをたとえ。
(改頁)
[十四丁 オモテ]
借ル時の(地蔵の絵) なす時の(閻魔の絵)
おそろしや 大晦日の 雉子の声
柏之
- (注)絵文字を入れて読む:「借る時の地蔵顔 な(済)す時の閻魔顔」
- 人間は、人から物や金を借りるときには、笑みをたたえてお地蔵さんのような顔をするが、いざ返すだんになると、閻魔さまのような仏頂面になるというたとえ。
(絵は福井市立図書館の『俳諧二重染』
を参照)
(改頁)
十五丁 オモテ
十四丁 ウラ
[十四丁 ウラ]
人仁不搆 御文読也
弌池画
- (注)「人仁不搆 御文読也」
- 未詳。「人に構わす、御文読む也」か。御文は浄土真宗本願寺八世蓮如が、その布教手段として全国の門徒へ消息として発信した仮名書きによる法語。
(改頁)
[十五丁 オモテ]
さく花の ひとへに西の 御堂哉
牡丹園樓雲
照月や ひたすら東 本願寺
菊東籬樓助
- (注)「人仁不搆 御文読也」の前書で、この句も収める。
(改頁)
十六丁 オモテ
十五丁 ウラ
[十五丁 ウラ]
やけづら火にこりず
さぎ長や うはきは男の はやし物
朝章
- (注)「やけづら(焼面)火にこ(懲)りず」
- 過去の失敗にも懲りず、同じような事を繰り返すことのたとえ。
(改頁)
[十六丁 オモテ]
一寸の虫に五分の魂
踊より 二重の役や 御抱伝
有林自画
- (注)「一寸の虫に五分の魂」
- どんなに小さく弱いものにも、それなりの魂や主張がある。小さくてもあなどってはならないことのたとえ。
(改頁)
十七丁 オモテ
十六丁 ウラ
[十六丁 ウラ]
網の目にも風留る
了舟書(印=尚正)
子は子なり すくひ揚たる 花の塵
一壷
- (注)「網の目にも風留る」
- ありえないこと、不可能なこと、かいのないことのたとえ
(改頁)
[十七丁 オモテ]
水に絵を書
みづに絵や うはさなみだの 魂祭
渋谷里逍
- (注)「水に絵を書」
- 水に絵を描いても残らないことから、無駄な苦労をすることのたとえ。
(改頁)
十八丁 オモテ
十七丁 ウラ
[十七丁 ウラ]
伊達のうす着
青瓐書
春風や 母は羽織を もたせやる
又尺
- (注)「伊達のうす着」
- 伊達政宗の家来がはでな服装であったことから、人目を引くために、厚着をするより薄着してお洒落にし人目を引くことのたとえ。
(改頁)
[十八丁 オモテ]
蝙蝠(こうもり)も鳥(とり)の内(うち)
雪岑画(花押)
夕ぐれに 扇流しの 羽風哉
旦調
- (注)「蝙蝠も鳥の内」
- 翼があって飛ぶのだから、蝙蝠も鳥の部類ではないかと主張することで、いかに価値が低かろうと、人間は人間だと開き直ること。また取るに足りない人間が、賢い者の仲間に入って得意になることのたとえ。
(改頁)
十九丁 オモテ
十八丁 ウラ
[十八丁 ウラ]
猪を見て矢を矧(はぐ)
財峩画(花押)
野良つゐで 身もがなふたつ 大晦日
露月
- (注)「猪を見て矢を矧(はぐ)」
- 敵を見て矢を矧ぐ、と同じ。イノシシを目前にして、ようやく矢竹に羽根をつけて矢を作る。必要が迫ってあわてて準備すること、手遅れの処置のたとえ。
(改頁)
[十九丁 オモテ]
闇(やみ)の夜(よ)の礫(つぶて)
花の香も 闇はあやなし 父なし子
橘沾自画(花押)
- (注)「闇の夜の礫」
- あてずっぽうに事をなすこと。また、やっても効果や意味のないことをたとえ。また、いつどんなめにあうかわからないことのたとえ。
(改頁)
十九丁 ウラ
[十九丁 ウラ]
青瓐書
蝶飛ぶや 大工童の 飯のうへ
清藍戸玉沾
- (注)この句には、ことわざの前書がない。