四季時候順

歌仙 原本56

世の中の土脉浮たり若菜原
沾洲

何を笑ふぞ遠近の山

露月
白がちに成ほど月は朧にて
橘沾

我に事足る竹の一滴

晋如
鯉の付旬は則栗の花
汶篁

降に究めて蓑を着て行

旭洲

あそび人に鎮守の額を読せたり
橘枝

(改頁) 原本57

まんまと甥の所化を取立

吟洲
破れ畳翌の節句に打敲き
朝洲

小刀にさへ切鍛冶は有り

沾永
荷宰領牛若君へ物語
来川

浴衣を掛し爰の透垣

執筆
水見舞月をば誉て帰けり
旭洲

木履取らるゝ夜の冬瓜

橘沾
恨みぽい男は秋を暮しかね
吟洲

師(ス)兄(ヒン)と成つて元来が色

沾洲

(改頁)

さし入に薬鑵の光る門の花
晋如

山明の瀬の不断震ル梁

朝洲

盲人の手紙預り帰る雁
露月

舞台の上も茶の湯成らん

来川
酒飯の中へ座したる生駒山
沾永

羽織の数も此ごろの医者

橘枝
嗽する先にうきたつ菱の花
旭洲

涼み戻りも近付の馬

紋篁
紹鷗の律儀に済す錦五十
沾洲

(改頁) 原本58

御殿の瑾は遠い雪隠

晋如
一日に替る憂世の置火燵
来川

月氷り行棒松の上

吟洲
篳篥で琴をいためる君が癖
橘沾

光琳染に美しい𤾣(白ヘン=黴)

露月

盃は膝へ流れてほとゝぎす
朝洲

目付の役は目を付ぬ役

来川
幾代経ん棟の瓦の紋どころ
橘枝

功(勲)一等の定たばこ入

沾洲

(改頁)

終日の人は紅ひ花の山
紋篁

蝶も遊びの風心よき

魚尺

春の部

蓑箱に一種御隠し菜摘かな
老鼠
和歌の浦の海苔を送れるかたへ
海苔しぼる芦辺の鶴のこぶし(挙)哉
京 仙鶴
大路のさま松たてわたし
はる風や紅はく見世の上り口
柯木
鶯をまくら時計の栖かな
晋如

(改頁) 原本59

鶯や霞ヶ関の窓の内
楼川

初梅や雨夜の軒も何所となく
夕佳堂 蘭経
遠乗の吹かれ吹かれて梅の下
沾山
曙や白き扇に梅の花
啓史
誉人から言葉のたらぬ富士と梅
蕉渓
伽羅利の目にはさやかに梅の風
笠雫
表店へかますの米ぞ夜の梅
笠山
いつ見るぞ梅のあるじ(主)は渡し守
文雅

(改頁)

歌仙

梅が香に玉隠すべき谷ぞなき
止水

草履の数に痩るさわらび

露月
飯鮹も都近さに売に来て
宗瑞

養ひ君の便りほしさよ

咫尺
二つ有ル物は残して後の月
之悦

障子の破れを塞ぐ菊形

華洲

世のうきを隙になられて老の秋
素丸

松嶋や見ん橋だてや見む

執筆

(改頁) 原本60

百貫目遣ひ無くして無芸也
露月

小褸ほつぼつ思ひあり顔

止水
瓦家にくず(屑)家も同じ雨の音
咫尺

幟の裾ににぎやかな浪

素丸
足軽のさきへ立たる般若鑓
華洲

三ケ月はやき牛込の坂

宗瑞
誰じややら格子の内に鳴鶉
止水

冬の近さに袖も留たか

之悦
月参の腰懸酒に花心
咫尺

(改頁)

此永い日に鐘を算へる

露月

夜伽へも祝儀をくれる春に逢
宗瑞

尼が崎から聟も取る筈

華洲
おもたさに常はつかはぬ十寸鏡
素丸

涼しく眠る物干の猫

之悦
子伝へも雫のはねる水なぶり
露月

六角堂は日向なりけり

咫尺
煤拂て破戸一枚たゝきつけ
止水

鴻真来ならばをれも取たい

宗瑞

(改頁) 原本61

片隅の稲荷を隠す芋畠
之悦

月の路次からお端女の声

素丸
送り火の燃る間もなく打しめし
華洲

寝るに費な履ものゝ世話

止水

ナウ

ぐち/″\と同じ四分で年暮ぬ
咫尺

江戸の伯父にはすこし恨も

宗瑞
斎非時もあの世へ届くとばかりに
素丸

録のあるので抜井戸も出来

露月
負と見し征崩れて花なれや
華洲

(改頁)

飼鶯の耳へうれしき

之悦

表八章

初午やあらまし梅は花盛
文車

御秡麻箱へふたふたと鳥

露月
枝旅を思ひたつのも長閑さに
老鼠

男鈶を待ておもしろく汲ム

旦調
席書の中に恵比寿は腥き
志静

あらことごとし饅頭に汁

山郭
露の月気のいそがしき人は誰
超波

稲の香に狐たゝく戸

執筆

(改頁) 原本62

船頭の昼寝へ届くやなぎかな
幾邦
青柳や水のうごきも二三日
松雨洞水宿
吹ぬ日は生れたまゝの柳哉
主啇
土筆原風が誘へば薄煙
宗瑞

野花黄蝶頷春風

鎌倉や今苗代の屋鋪割
来川
行物は我桃灯ぞ鳴蛙
羊素
菜の花に鶏の目ははや暮ぬ
安士

(改頁) (二十六丁は欠。早稲田大学図書館本外部リンクによって補う)

菜の花や盛と見せて種の事
青瓐

春風三月曽閑ならず。右隣繁花の勝地より

吹鑽るたはけを花に一二輪
篤信斎? 佳風
よゐほどに酒は飲れぬはなの山
雪井

観音の甍斜に東叡の霊閣誠に堆し

鳶の巣の虱ちらすな花盛り
湖十
高取や花のうへ行番葛籠
常仙

(改頁)

うかれ女は名のあるたぐひ山桜
圃月
蝶しばし花を吸のか休むのか
芝英
花盛魚屋に問へばきのふけふ
桑揚
手枕の乞食も見えし花の山
文香

春遊

大道紅楼日已斜
柳辺風起送飛花

ちる花のやなぎを辷る夕部哉
莎雞

(改頁)

仝(同)

水門に浪こそたゝね祢宜の藤
芥翁
山吹や岸に咲とも野のすがた
逸志
春雨の夕部淋しき無学哉
露月

夏之部

更衣

今朝よりぞ一ツ印籠郭公
橘沾

享保十九年の初夏家の

業を子なるものにゆづりて

遁れても袷着る日はあわせ哉
珪琳

原本63

(貼紙):梅が香や隣は荻生惣右衛門

其角ノ句ニアラズ  珪琳の句ナリト

松宇の談ナリ

(改頁) 原本64

枳の露も和らぐ若葉哉
青峨
蝮のまきつくまゝに若葉かな
超波
追もせじ谷中の木立みな若葉
長鶴
花麦や鎌倉殿も旧にし世
撰居

郭公

問捨る草履の音やほとゝぎす
全木
老らくの其東海寺郭公
山夕
岩倉も寝坊は遅し子規
一漁
生壁に子は心せよほとゝぎす
有佐

(改頁)

時鳥や広野ゝ天津空
渭北
春も惜し待や待乳の蜀魂
維帆
ほとゝぎす折々声を休めけり
文綸
ほとゝぎす朝日に雲のかゝりけり
木昌
郭公葉を染る夜や磯の風
尹張

千重百重咲みだれたるを壷中にさしたれば

花罌子や俵蓮や種をろし
露沾
又咲や散にもこりず芥子畠
貞山

(改頁) 原本65

歌仙

卯の花や心のとまる暮時分
一暁事藤角

舞して帰る猿に実ざくら

露月
山里にあそぶ間も翠簾かけて
麦阿

影やはらかに更るあぶら火

安士
てる月に竹の雫のはら/\と
珪琳

墨する袖にうそ寒き風

執筆

出ぎらひに多は秋の好な人
露邑

だて茶定て朝は三ぷく

来絮

(改頁)

赤坂はあかさか程のゆきゝ也
財峩

日陰/\をすいかづら売

藤角
宮守の妻も巴の紋所
安士

暖簾に髪の心もとなき

露邑
深草に住て居ながら飼鶉
露月

露の身じやとて金は有げな

麦阿
執行者へ一夜ばかりは月を見せ
来絮

娵も姑も石臼を挽ク

珪琳
花筵しき波よする這入口
安士

(改頁) 原本66

鮒の鱠もわすられぬ京

財峩

永き日の鑷も灰に喰あきて
藤角

またつかはるゝ少僧都也

来絮
夕蟬に置ならべたる鞠円座
露邑

先ヅ上は書を見れば急用

露月
たまたまに買たおやまの高鼾
麦阿

後には奥のさめし大雪

藤角
古寺の茶粥に蕪を切込て
珪琳

され共篦は利た牢人

露邑

(改頁)

目出さを啼ケど烏の憎まるゝ
来絮

先キ荷はもはや豊後橋迄

麦阿
つく/\と降名月をかぞふれば
財峩

おもて/\と落る桐の葉

安士

ナウ

はじかみは隠逸らしく芋細
露月

坊主はしよりは下手そうな医者

珪琳
出女の昼過からは戸にもたれ
藤角

あんまりはやく落て二の足

財峩
着る物に加減のならぬ花の時
露邑

(改頁) 原本67

長い堤もあかずたんぽゝ

来絮

仝(同)

卯の華は昼になるまで夜露哉
牧子

黄色な麦へちつとづゝ照る

晴川
川船を鼻の先から漕出して
古由

居眠る側のそれも芸者ぞ

羽丈
饅頭は草紙へも盛る月の影
巨葉

隣へたんとしだれたる柿

牧子

はせを葉は裂たいまゝの木挽小屋
晴川

(改頁)

繋で見れば大キなる犬

古由
ふところに一日文をけばだゝせ
羽丈

おもひもとげずとしを取ル足

巨葉
鳥居からちらりちらりと雪が降リ
牧子

絵でも欠をしたる白張

晴川
むなかひは刻たばこの房に成り
古由

また客僧の池を見て居ル

羽丈
藪鼬丸太の筥へ顔を出し
巨葉

昨日の南そこらうち花

牧子

(改頁) 原本68

春の月はやり頭巾を初に着る
晴川

彼岸の空は仏法の空

古由

歌らしき涎を鳥羽の車道
晴川

貞女の噂聞もすさまじ

巨葉
恋衣別に衣はなかりけり
古由

髭ぬき鏡見てはいやがる

牧子
石台も刷毛の序の黒格子
晴川

朝はればれと拝む日の脚

羽丈
ものゝふの物のあはれは産の時
牧子

(改頁)

よう笑はせる座頭では有ル

晴川
夏が延び盆過がのび舩の月
巨葉

明地の蓼穂かなぐつて来る

古由
ねんごろに瓢の尻へ笊を釣り
羽丈

面白さうに寝て見たる馬

巨葉

細くとも象潟かけし臑ぞかし
牧子

手で盛て出す冷し蕎麦切

晴川
汗拭紺でなふては気に入らぬ
古由

三人よればふたり仁斎

羽丈

(改頁) 原本69

世の中の欲はいひがち花曇
晴川

とくより起てうごき摘ばや

執筆

松魚

別れしもしばしのほどや初鰹
乾什
一腰はあら身ながらも松魚哉
志静
一重帯こゝろ安さもかきつばた
白石
走り出る下女が一声若茄子
百洲

あるじの留守に薗へまかりて

牡丹見や咎をすくなく立かゝり
伊勢 乙艸

(改頁)

鎌研て待や富貴の麦の秋
池永
竹の子や夜々竹に成かゝり
素丸

田植

朝旅の朝面白き田植かな
蘭経
さみだれや残らず揃ふ子共数
雨橘
星の名をかぞへ尽すや籠蛍
沾永
明松も星にまじるや富士詣
谷水

浅草の富士

風薫不二の裾野やせこ禿
渋谷 里逍

(改頁) 原本70

路次入や土蔵の間の夏木立
尾谷
葭雀や何所に隠れて堀一重
少年長芙
白雨に野飼の牛を洗ひけり
芥翁
涼しいか松かね枕わらべ共
蟬之
夜をこめし蓮の花見の昼寝哉
宗瑞
咲蓮の其根を掘たくやしさも
露月
たば((ママ))川は玉なりけらし夏払
咫尺

秋之部

稲妻や結句汚るゝ足の裏
雪井

(改頁)

七夕や又あら玉の竹の風
尹祚
雪折のなきを踊のけしき哉
貞佐
送り火や起て見たれば六ツの汐
青瓐

色鳥

色鳥を籠てありたし鞠がゝり
蘭経

名月

実陰卿の詠歌を折からおもひ出て

御感あるその空もがなけふの月
露沾
垣間見やかつら男の初冠
立圃

(改頁) 原本71

主あるかいざ初月のともし妻
沾梅
名月や梢くまとる池の面
平洲
我恋は跡へもあゆむ月夜かな
秀圃
月見けり老か枕か若い膝
譚北

一句両弁 上八字一意/下七五言一意

まなぶともまなべまなばで後の月
佳風
出来菊や又より添はん此はしら(柱)
りつ山
碪にも汐時はあり世の噂
百花潭 琴台
子福者はさう千声の小夜衣
露月

(改頁)

化そうな女は見えぬ紅葉群
芥翁
甘干や柳さくらの枝に迄
麦阿

冬之部

暁の音は誰咳石蕗の花
貞丸
鷓鴣の背にたまりもあへぬ落葉哉
催種
凩や箕を簸門の女声
魚尺
初霜に刷毛のとゞかぬ軒端哉
標梅
冴る鐘死なぬ惣嫁の声ばかり
泰鴎
汐につれ汐に連たるちどり哉
芥翁

(改頁) 原本72

わたし守鷺にひとしき雪気かな
蘭経
初雪に呼んだ其夜がおもはるゝ
露月
初雪に不二見ぬ国の人はさぞ
仙水

除夜雨

鶯も唄口しめせ除夜の雨
橘沾

歌仙 一集の満尾を寿て

積れなを古今の跡を松の雪
両峩

世をすぐ(直)に漕水仙の咲

露月

(改頁)

畳紙匂ふたばこの静にて
青峩

我書たれど読かねて問

財峨
宵月夜手杵の響風の筋
撰居

目をうちさます木兎の顔

青瓐

律宗の声より秋や調らん
超波

都の残る奈良の勿躰

執筆
葉桜にうらみを云ふも巨釈から
露月

わるい女はわるいとて見る

両峩
棟上げの餅はもち屋へ渡しけり
青瓐

(改頁) 原本73

袖かき合せ居ばる祝子

撰居
松がねの斯も手馴し通り端
財峨

栄螺の沖も年による波

超波
建立の分に応ぜぬおもひ立
両峩

あれば有もの髭の出替り

青峨
花を着る笠置のもとのさゞれ石
青瓐

月見るまではさても遅い日

露月

あらけなき仁王の身にも腰は巻ク
超波

外方な上によろづ不器用

財峨

(改頁)

舩持の人の宝に苦労して
撰居

鯖のさしみも光る振舞

青瓐
茶筅筆それも淡しき名なりけり
青峨

雪の落馬の数も有増

両峩
かはくのをこらへて居ても宿の首尾
露月

つくづくみればすりこ木の眉

青峨
剃髪の祝儀とは誰か言そめし
財峨

竜眼聞も十三夜もの

超波
本阿弥は下谷あたりを千代の秋
撰居

(改頁) 原本74

芭蕉でもなくずいきでもなし

両峩

角文字やろの字にむずぶ牛の綱
青瓐

鼓が瀧へ右の肩出す

超波
面桶のうらやましくもひとつ請
青峨

鶴日和かな老のさいわい

露月
そへ歌のあつめる風の花や香や
財峨

木の芽もはると云ふよしぞかし

撰居