春部

原本 21

元日

元日ハけふを離れし日なりけり
小モロ 魯恭

凡(およそ)人間の寿を諷(うた)ふハ初春になん、遥に五十里のひんがしなる
鳳城をあふぎつふしつかく静けき初日にあふ事を悦ぶ

元日やためしも長き人のたね

初空

はつ空や拈花微笑(ねんげびしょう)の心もち
戸べ 素時雨

立春

朝起や我も春たつ人に似て

花の春

嚔(くさめ)しても笑ひになりぬ花の春
武 抱儀
人に餘念なきと申をはなのはる
二柳 斗目
花の春此うれしきハ別なもの
フクヰ 喜洞
言かへしいふや今年の花の春

(改頁) 原本 22

今朝の春

冨士を見て腸(はらわた)すめり今朝の春
アミカケ 月頂
けさの春千箱の土を得し心地
トベ 大器

若水

ワか水に老をワするゝ小桶かな
五考
若水をくミこぼしたるワらひ哉
アミ掛 春朗

はつ日

罔両(かげろう)もゆたか也けりはつ日の出
カシナ 量哉
はつ日かげものゝはじめの大事也
網カケ 月桂

蓬莱

蓬莱に米のまもりを添にけり
二柳 雄車
蓬莱や見ても聞ても常世草(とこよぐさ)

福寿草

名をしたし花のまことや福寿草
相 佳喬
よぶ声も冥加がましや福寿草
トベ 李月

(改頁)

門松

門松にあるじの心見えにけり
シン田僧 吾龍
門松やミなものゝふの家つゞき
ヤシロ 歩雪

万歳

万歳ハ先旅人のはじめかな
伯 葛老
万歳やおかしがらるゝそりこゝミ

はつ夢

初夢のさめて違はず不二の山
ヒナ 一燈

うたひ初

孫彦の愛にや老がうたひぞめ
金井 杏翠

子の日

子の日とハ家にはゞかるあそび哉
サカ木 雨紅女

小松引

雪の凝つかミがてけりこまつびき
ヤシロ 石山

人日

人の日の人も無事なれ暦草
相 宇良々
ひとの日や八歳よりのものまなび

(改頁) 原本 23

七種

俎板のなゝくさ見れバ野もこひし
ヒクマ 鴉風
七種の拍子くづれてワらひけり
ヒナ 薫可

左義長

左義長に寺ハさびしきともし哉
トベ 左井

若菜

松に日ハさてともつまぬ若菜哉
武 車両
一盆こと/″\しさよ雪ワかな
堂守にとがめられけり若菜摘

なずな

一つかみ老が手ワざのなずなかな

セリ

名のしれぬ小草匂ふや芹の中
牧ノシマ 林岡
香に春のこもれる芹の白根かな

若草

ワかくさや何から出て作はなし
スザカ 東籬

(改頁)

若草に的場をつくる男かな
トベ 李雪
ワかくさや水のところハまださむき
牧ノシマ 李嵠
若草ハ歌によむべき名なるかな
若草に虱狩する旅人かな

春の草

未熟からそだつ垣根や春の草
小モロ 志明
なげやりにものを干けり春の草
はるの草よしぬるゝとも敷寝せん

くくだち

くゝだちも春のものとてもらひ鳬
小舟山 有翠

芦の角

青空や船の道まで芦の角
ヤ代 柳蝶

蕗の薹

手と足のひまに見出すや蕗の薹
摂 奇淵

(改頁) 原本 24

うめ

うつくしき貧者見出すや梅の中
武 青阿
満月の夜ハ草もあれ梅の花
ゝ 文玉
梅咲て雀のあさにしたりけり
タナカ 希杖
人うめにうとし油のワく処
越 月敏
先うれし梅の夜明て寒がらす
上平 槿馬
捨てられし世をはゞかるや庵の梅
ゼン光寺 堆恭
梅の花兼好の友の来ればちる
川ダ 西川
網はらり/\と干やうめの花
長ヌマ 魚淵
一日ハ梅見てからの月夜かな
トグラ 雨林
梅に来て月出る間を老にけり

(改頁)

梅ハ世の香をなすものゝはじめ哉
軒のうめ月に夜明のかゝりけり
窓の梅寝る時までハ月もなし
楳が香や昼ハ心のさハがしき
白梅や色ある花はハ香もいやし
うめ咲てかくれきられぬ菴かな

きぬかけた欄にも青む柳かな
尾 塊翁
青柳や手をはなつ時芝の鐘
武 波間も女
青柳やおばしま近く日のうつり
サカキ 文歳
風なりにふかるゝ小野の柳哉
トクマ 楪甫

(改頁) 原本 25

落て来る雨さへ青きやなぎかな
ヒナ 竹亭
青柳のうごくもくせのひとつ哉
柳見て気楽に年ハよるがよし

つばき

人かげのさそふ度/\(たびたび)ちる椿
相 月年
垣の椿あら心なき隣あり
トベ 九峨
花つばき赤きばかりが色なるか
くらきとてのぞけば落る椿かな
落椿月の片枝うごきけり

松の花

松は老木花ハます/\新しき
トグラ 柳花

木の芽

山中や老をかみ/\木の芽つむ

(改頁)

うぐひす

鴬の川浪かぶるところ哉
城 蒼虬
黄鳥(うぐいす)とふたりで居たるひと間哉
南郷 蘭英
鴬のきておもしろき古院かな
竹ブ 松旭
うぐひすや枯れ木の高き朝の色
ゴン堂 草理
鸝(うぐいす)の声をやぶるなはねつるべ
寂マク 素東
鴬の鳴里ハひとのすなを也
うぐいすや金かし殿のひと構へ
尋てもきく黄鳥の来鳴哉
黄鸝のなかぬ日ハ我と日にあきぬ
鴬の声費して日ぐれたり

(改頁) 原本 26

猫の恋

遠慮ある客ともいへば猫の恋
上平 白太
赤猫の恋あらそひにかまれけり
恋時やさむがる猫も夜の門

長閑

のどかさや夢にむすぶも旅の事
トグラ僧 布尺
長閑さや鯨の見ゆる海のはて
サカキ 瓢三
草の戸や長閑にくらす翁たち
長閑さや這習ふ子を砂のうへ
のどけきや山なき里ハ猶の事

東風

はつこちにふくれ出たる雀かな
シン田 路酔

行もどりすそはく志賀の霞哉
城 月居

(改頁)

哥によミて置ばや不二の初霞
川合 春梢
浪にミどり山にかすみの果もなし
ヒナ 美山
霞よりあなたに家の見へにけり
牧ノシマ僧 隠人
姿あるものミなかすむ野山哉
八重霞催馬楽(さいばら)うたふ声す也
春のくせてる日といへばかすむなり

雪解

花のたより雪解の筏またれけり
トグラ 馬毛
松の木の丈高しなる雪解かな
シホ尻 呂允
どことなく心のうごくゆきげかな
牧ノシマ 島喜
雪解や谷にちいさき家見ゆる
ワカミヤ 百久二

(改頁) 原本 27

雪のとけて来る山遠く見へにけり
ワカミヤ 松哉
ゆきどけや小溝につもる蜆(しじみ)がら

残る雪

松が枝のまがりなり也残る雪
トグラ 英雨

雪間

順礼の米こぼしたるゆき間哉
ゝ 貞水
寺近く足袋はきかゆる雪間哉

春の雪

觜太(はしぶと)の何見て居るぞ春の雪
シノゝ井 素水
ふるとしの心はづかし春の雪

淡雪

あハ雪やいまのる舟の艫(へさき)より
武 袁丁

余寒

客たてしあとや余寒の謡本
三 秋挙
寝るをまちてひそ/\と来る余寒かな
上 乙人

(改頁)

冴かへる

梅ちるや冴かへる夜の水の味
武 鷺雪
きり餅のさえかへりたるむしろ哉

正月

松とりて正月心はなれたり
正月やひまな日もなく十五日

出代

出代や膝に手を置朝の雨
相 百亀
かハり女やけふになってのつとめぶり
出代や浮世にあまる人はなき

薮入

薮入や墓の松風うしろふく
一茶

はつ午

はつ午や絵馬を提たる局たち
ヤシロ僧 天外
初午や長者やしきの楠一木

(改頁) 原本 28

彼岸

仏法のけかちを雨のひがん哉
トグラ 数守
髪おろす児のうつくしき彼岸哉

涅槃

臨命終時の大事ワするゝ事なかれ

時々刻々の悪念おこす事なかれ

御仏のワかれハ三世のかゞみかな

こハ長池てふ処の碑生前にたつる武曰の功也

死なばしね折こそよけれねはんの日
涅槃会やこゝを思へばたゞこゝろ

春の日

春といふはる不足なき日なりけり
中ジマ 東桑
はるの日や何処(どこ)と名ざゝず面白き
シンデン 嵐夕
春の日や留主にもされず寝もされず
人の子のものいひそめし春日哉

(改頁)

ひま過て人にあかるゝ春日哉

陽炎

陽炎の様にありたし思ふ事
房 杉長
かげろふやにぶきあゆミを放し亀
陽炎や犬もくらはぬ魚の腸
陽炎の消やすくしてもゆる哉

糸遊

糸遊にかハるでもなき日和哉
マキタ中 文居

朧月

花ぬすむ人のミやびやおぼろ月
ヤシロ 如月
朧とハ只/\ひくき月夜かな
ナカノ 梅塵
さればとてどちら向ふぞ朧月
月一夜雨ともならでおぼろなる

(改頁) 原本 29

出るより入さを月のおぼろ也

おぼろ夜

朧夜や水鳥妻をつれ歩行(あるく)
白斎

春の山

山の春行水よりも暮遅し
一夜寝て曙(あけぼの)見たし春の山

春の海

住よしハ哥のかみ也春の海
芸 玄蛙

春の野

春の野の袂にも入小松かな
加 年緒
はるの野にいそぐけしきハなかり鳬

春の水

大日枝の匂ひこそすれ春の水
薩 関叟
春の水匂ふのほりにながるゝか
越 年眉
小硯や松風むすぶ春の水

(改頁)

すみれ

ゆかりなき家につまるゝ菫かな
勢 椿堂
我庵の花のはじめやすみれ草
ゴン堂 梅温
笈仏も敷ハあまりぞ菫草

蒲公英

たんぽゝのほゝけてちるといはぬ也

土筆

畑中に道のつく日やつく/″\し
川ダ 東朝
土筆崩れし土手のこりけり

杉菜

馬士(うまかた)の馬に麁略や野ハ杉菜
シホザキ 文長

花の丈経木に薊倒れたり

独活

うどほりの捨ふて来たり鹿の角
庵中 鳳秋女

ワらび

一日のかてにハとほしはつ蕨
在信 酔月

(改頁) 原本 30

早蕨や轡(くつわ)を拾ふ砦あと
中ノ条 我延

菜の花

菜の花に恋する雀かくれけり
武 久臧
なの花に来るや山鶸(ひわ)河原ひハ
シホノ 一山
はき捨し菜屑も花の咲にけり
カツマ 仙蛙
菜の花や霧の這行山ばたけ
なの花や山家の世とハかゝる時

草麦

草麦をへだてに鶴のあゆミ哉
サカキ 金谷

はつ桜

まつうちが花とハうそよはつざくら
在信 志計留
朔日の月にくらべんはつざくら
ハマン ちさ丸
等閑(なおざり)にならぬ浮世に初桜
キヨノ 素三

(改頁)

夜あらしといふものあるにはつざくら

初はな

はつ花の終(つい)にハ雲をなすものか
武 太□

接穂

梅柳うたふてあとをつぎほかな
シホザキ 真弓

さし木

つかぬかと思ふに芽ばるさし木哉
□ 戯遊

高ひくの道に捲けしうその声
金井 路雄

駒鳥

駒鳥の外に声なし大峠
ヨシ原 古原
こまどりの啼や寝覚の山近き
ハセ 雨声

雉子

朝な/\放心しつ雉子の声
川ダ 鶴雪
年寒し飢てや雉子の蕪ほる
どちらへも遠き野づらやきじの声

(改頁) 原本 31

ひばり

旅せずバしらじひばりの朝朗(あさぼらけ)
ゼン光寺 亀丈
夕心はりくもりながらも春ぞかし
牧ノシマ 双二
啼や雲雀のくたびれし船の空
舞雲雀くるゝけしきハなかりけり

乙鳥

古ごとをワすれぬ顔のつばめかな
トグラ 桃舎
ひく弓の中を燕のはしりけり
シホザキ 素鶴
うたゝ寝の顔に乙鳥の羽風かな
乙鳥や畳に落しから卵

雀子

手のひらの茶粥すゝるや雀の子
越 杉亭
雀子のあそぶ邪魔するにハつとり
ウチ川 □太

(改頁)

罪のなき声や軒ばのすゞめの子
小舟山 雪朗

野雁

小田の雁かへると見えてふえにけり
ゴン堂 父□
やよやまて見しってやらん春の雁
イナリ山 竹摩
帰る雁世の静けさをきく夜哉
ハセ 文綾
しき浪やたちかへりなく春の雁

鳥の巣

巣ごもりの鳥や子になく日もあらん
蕣齢

鹿の落角

大原に落してあるや鹿の角
ワカ宮 良風

てふ

井戸ばたの豆腐にうつる小蝶哉
武 国村
蝶のむれてふのひとつにくづれけり
ウスダ 高斎
蝶の飛心しらねど日和なり
ワカ宮 寄白

(改頁) 原本 32

草の蝶はなふく馬にはなれけり
てふ程にむつまじき虫ハなかり鳬
むれ飛や蝶はまことに日和むし
何の香ぞひとつ処に草のてふ
吹飛す蝶よりかろしから卵

かハづ

住すてし家にもありてなく蛙
武 雪人
啼蛙遠くなるほど捨られず
相 鳥流
江のかハづなかぬ処もおもしろき
トグラ僧 乕土
野のうへに空の近さよ啼蛙
サカキ 菫席

田にし

ふたあけてひろ沢のぞく田螺かな
城 梅價

(改頁)

小雨降小さしの音や啼田にし
相 豊女
聞よればとかく田螺ハなかぬなり
ゝ 喜篤
杖とって見ればたにしの居処也
竹ブ 佳永
人心田螺なくさへうたがハし
觜太の田にしをねらふ山田かな

蜂の巣

蜂の巣の御堂に古きはしら哉
中ムラ 桑悟

あぶ

高窓やはり/\虻の来る夕
フク井 遊蝶

鳳巾

三日月の鳳巾のかげから見えにけり
小ブネ山 午中
かくれ家や時しり顔に揚るたこ
松シロ 雨洞
城松のうへにくれけりいかのぼり

(改頁) 原本 33

焼野

から/\と焼野に何の卵ぞや
トグラ 方水
石宮のふたつとものなきやけ野哉

山やけ

なぐさみと見らるゝ程に山をやく
城 蕪街

苗代

苗代や老のふミこむものハ何

たうち

碁に倦て見ても其まゝ田打哉
トグラ 阿多比
いたはりや鶴もたゝせず田うつ人
フク井 草暁

畑打ち

畑打の雨におくれぬ姿かな
新デン 吉斎

きさらぎ

如月や旭の匂ふ台所
ゝ 桑布
きさらぎや日はれて歩行(あるく)伊勢参

見る人に笑顔をうつすひゝな哉
中ノ条 揚波

(改頁)

問ふ事の答へしさうぞ雛の顔
刈ヤハラ 歌泉
ひなのあす雛の笑顔につゝミをし
ヒナ 李東
雛の日やふすまへだてに聟の沙汰
弟の子がぬすんでにげるひゝな哉

汐干

汐風もたゝず汐干の玉がしハ
シホザキ 吐流
乗馬のしほ干の泥を蹴たてけり
汐干がりつめたき水を見付けたり

永き日

永き日になれて中/\くれをしき
武曰
長き日の枕に琴のゆり音哉
トグラ 乎井
ながき日やものに罪なき児心

(改頁) 原本 34

長き日や嫁の迎ひのかざり馬
日の落て日の長き事をおぼえたり

春風

是程(これほど)の寒き中にもはるのかぜ
肥 鞍風
春風や吹もかへすも人のうへ
野 雄尾
はるかぜの交りぶりや野の小松
シホ尻 椿老
春風に舞セて見たる小笠哉
サカキ 莱下
ひきはなつ矢声くもるや春の風

春雨

春雨や門に砂もつ桑どころ
三 卓池
はるさめハ心のゆるむさかひかな
牧田中 千頂
春雨に出すハ恥かしやぶれ笠
トグラ 珠竹

(改頁)

よき春ぞ柴の戸口も小雨ふる
上ダ 為雄
春雨に人のふミゆく土橋かな
中ノ条 百外
春雨や馬ハうまやに喰ふとる
春雨や人の骨まであぶらつく

春の月

我まゝに門うつ人やはるのつき
サカキ 至耕
むっくりと起てなく児や春の月
臼ダ 文休

無義道(もぎどう)に折て祝ふやもゝの花 在信 梅土
もゝさくやふって出て来て駕やらふ
桃の林花に狐をまつりけり

海棠

路次笠に海棠の片枝うごかセり
刈ヤ原 文水

(改頁) 原本 35

木瓜

笠敷てやすむ旅人や木瓜の花
ウチ川 甘薺

山吹

山吹に篠のそよぎのワたりけり
武 白圭
山吹の露ぬりつけし岩根哉
かけはしや夕山吹の下ぐもり
山吹の葉ぶし帰るやなめくじり

梨の花

先師の愛し給ひし一本を余し、今の今までさかんなるを祝ふ

闇の夜ハやミで又よしなしの花
相ノシマ 有仏

躑躅

さくやつゝじふめばなくなる岨の道
シホジリ 南谷

ふぢ

藤の花かたげて浮世めかしけり
肥 菊也
掘出した様に家あり谷の藤
キヨノ 都夕

さくら

はなびらの山をうごかす桜かな
武 鴬邨

(改頁)

ちるをのミうたふうき世の桜哉
ベツ処僧 拙庵
散や桜流の末もさぞさくら
牧ノシマ 一賀
世のさくら我ものらしく詠けり
上平 鳳也
さくらさくといふ日ハ猶も酒のこき
ゝ 巣也
夕桜もみ手する程ちられけり
夜桜やよにあるものゝ迎ひ馬

こハ刈や原てふ里の碑、生前に建る処。其境連衆の功也。

山桜

親に先かへらば告んやまざくら
アミ掛 雨量
さかり十日あらば知べきを山ざくら
牧ノシマ 流関
咲ぬうちの嵐は兎(と)まれ山桜
竹フ 真下
山桜たれに見られてちる事ぞ

(改頁) 原本 36

山桜とふ/\くれて戻りけり

はな

大切な花になりけり飛小鳥
相 雀角
行雲や花の中より冨士を見る
ゝ 左葎
花七日預りものをせし心
上 鹿太
山里やもらひものなら花のたね
川口 漫鳥
いつとても花のもどりの月夜かな
スハ 敬斎
庭はきハあひてにげけり花の雨
トグラ 西車
雨の花とかくに思ひ捨かねし
タケフ 喜丈
心にもまかせぬ花の遠きかな
ちればこそ花のうき世といふならめ

(改頁)

念なくも花にくもれるまなこ哉

こハ寛政の頃生前に建る処の碑、戸部連の功也

観音にちかって花に死んかな

こハ文化の頃生前に碑とせり。則長谷山主超悟の功也

遅桜

世はなべて春からいそぐにをそ桜
シホジリ 布雪女

菊植

植かへて名はワすれたり菊の苗
ワカミヤ 貢雪

雲に入鳥

雲に入鳥が中にも卵かな

夏鶉

草麦や鶉はしりて夜の明る
ヤシロ 寿石
草麦に額吹るゝうづらかな

かひこ

とむ家につれて蚕のきげん哉
川合 東暁

小鰷

瀬も淵もよどみハ見せぬ小鮎哉

白魚

白魚や美し過て水のあか
スザカ 逸松

(改頁) 原本 37

水棚に白魚さむきゆふべかな

別れ霜

麦畑のいよ/\青し春の暮

行春

行春のはるに片か(よ)る心かな
故園
ゆくはるや追まハさるゝひとツ鹿
行春や今日までのふばたらき