秋部

(改頁) 原本 49

立秋

秋たつや児どものたゝく長瓢
中ノ条 路方
あさたつや野山は人のしる処
立なくも先朔日(ついたち)や秋心

今朝の秋

木の間から来るやたしかに今朝の秋
甲 漫々
身の老ハかねての事よけさの秋

七夕

七夕の思ひ草ふくかきねかな
越 石海
七夕やあが通りなる山の庵
東フクジ 無珍
棚機(たなばた)の吹なかへしそ風の雲
ワカミヤ 文老
くもるとき必星のワかれかな

(改頁) 原本 50

迎火

迎火になき母の名をよぶ子かな
むかひ火やさぞ古郷も比ゆふべ

迎鐘

川舟の何処(どこ)まで行ぞ迎ひ鐘
小モロ 三民

燈籠

燈籠に狐のつきし野寺かな
トベ 蘇鳥
雨の夜や哀燈篭の粘(のり)ばなれ
トグラ 文架

施餓鬼

継母にハかくす涙のせがき哉
小舟山 十寸穂

墓参

目じるしの松さへかなし墓参
トベ 甘雨

魂まつり

たまゝつり貧者ぞものハ殊勝なる
上 湛水
魂棚の馳走あかるし丘の家
武 可丸
ミのかけてワれなつかしや玉祭
常 李峰

(改頁)

ものゝ香やかなしむひとつたまゝつり
寂マク 暁白
なきたまのむかしにかへるはなし哉
ゝ 湘雨
盆草にまつらるゝ花はあはれ也
たま棚やしのび涙もありぬべき

盆の月

はなやかにてらする盆の月夜かな
武 一蕙
芒さへたゞの草也盆のつき
相 淇渓
里中に此山なりを盆の月
イケ田 真菅

生身魂

うれしきや今年もことし生身魂(いきみたま)
トベ 入左

送火

送火に焚つぐ草もなかりけり
蒼翠
おくり火のたよりすくなきけぶり哉

(改頁) 原本 51

送り火や跡なく消て松のかげ

花火

花火見て我家とをくもどりけり
八幡 杜木
風の花火あとなきものを詠たり

さそはれて露に成たるをどり哉
武 南井
見らるゝも見るもおかしき踊かな
刈ヤハラ 盛哉
月かげや踊過ればあと寒き
神明 故園
夜をなくすて子に踊くづれけり

相撲

うつくしといはるゝ人のすまふ哉
上トグラ 有莱
勝角力人を見おろして入にけり

稲妻

いなづまの白きを雨の空なるか
若ミヤ 文草

(改頁)

いなづまの月をはなれてミたりけり

二百十日

我乞食せんことしの二百十日哉
八朗

稲の花

稲の花残ればちりちらぬなり

早稲

ゆったりと早稲につゞまる旭かな
神畑 買路

草の花

詠れば世ハさま/″\よ草の花
福シマ 因山
草の花見て居て草をむしりけり
西テラヲ 素山
尼達の掃除すミけりくさの花
草/\も花咲とけて枯よかし

はぎ

ワすれても萩はよき日にちりにけり
若人
萩さくや出してなぐさむ旅のもの
尾 東陽

(改頁) 原本 52

弓とりの眉さむがるや萩ちる日
常 李尺
萩の原出ぬけるまでをあした哉
上田 菊成
静きや露のあまりを萩のちる
ヲミ 可鴬
白萩やものにあくものながめぐさ
萩といふはぎに露なきハなかりけり
口をしや塵にかへりしこぼれ萩

行燈(あんどん)で野道見せるや荻の声
城 雪雄
汐先に荻のはつ折ほのかなり
介亭

桔梗

蓑ずれにひらく桔梗のつぼミ哉
トグラ 十朗
露の桔梗しばらく朝のあれよかし
ゝ 草母

(改頁)

女郎花

女郎花日も夕ぐれになりにけり
武 孤山
姫部志(おみなえし)露にも蓑はきるものか
相 豊秋
山賎(やまがつ)も折バいたはれをミなヘし
トグラ つたふ女

藤袴

藤ばかま人もしりたるかき根かな
ベツ所僧 天朗

朝がほ

秋つ国けふあさがほの咲にけり
甲 嵐外
蕣やあすよりあすの長き花
武 文貫
朝顔や日のかげうけし几
キヨノ 莵孝
あさがほに隣の朝寝見付たり

鼡尾花

ミそはぎハ花のまこともつい三日
奥 旦々
宿魂草(みそはぎ)のちるさまもなくこぼれけり
ヤシロ 柳玖

(改頁) 原本 53

らんの香や夜深に机置直し

ばせを

露見出す奥やばせをの月明り
今ザト 蕉丘
破れ鐘の声にくれ行芭蕉哉
手とぼしのゆら/\ばせをの嵐かな

糸瓜

むづかしきへちまのワたや皮一重
トベ 匊二

ふくべ

七ツまで日にてらされてなりひさご
コモリ 支月
たね瓢ものゝついでに詠けり
水垢のところまだらになりひさご
長瓢たねともならで落るかな

西瓜

夜の市西瓜の皮にすべりけり
ヤハタ僧 月隣

(改頁)

唐がらし

唐がらし烏の巣より落にけり
小フネ山 嶋鶴
鬼灯(ほおずき)ハ人もふくむよ唐がらし

木槿

剰(あまつさえ)虫の喰けり花木槿(むくげ)
武 護物
世を迯(にげ)し人の構や花もくげ
今ザト 渚柳

桐一葉

ねぶる子の乳房はなせば一葉散
奥 雄淵
屋根葺の仕舞てゆくや桐一葉
ゼン光寺 挹芝
くるゝまでかゝつてけふも一はかな
長ヌマ 春甫
きり一葉にらんでとりの迯にけり
上平 一白
桐一葉馬もくらハでくちにけり

柳ちる

椽にけさ一葉はき出す柳かな
奥 一肖

(改頁) 原本 54

ちるにまで情ある門の柳かな
トベ 草二

むし

啼虫の草のうへより朝の不二
豆 有鱗
名もしらぬ虫までふくや庵の秋
松シロ 山丁
はなされて露に交るや籠の虫
西テラヲ 浮漣
月影をあふぐやふせば虫の声
トグラ 量翠
起て見て愚かになりぬ夜半の虫
キヨノ 乕口
啼ながら簾にあそべ月のむし
クサヲ 偆児

竈馬

こほろぎのはねこぼしけり油皿
こほろぎや散んとしたる膝がしら

蟋蟀

雨しばしやミてきかせよきり/″\す
中ノ条 宇喬

(改頁)

柴に居てさしくべられなきり/″\す
きり/″\すかれも妻こふ声なるか

蜻蛉

居直りてもとの姿のとんぼかな

蟷螂

蟷螂の声出すべき眼面(めづら)かな

秋の蝿

秋の蝿ひとつ/\にたちにけり
牧タナカ 知三

あきの蝉

もろ虫のさかりを哀せみの声
トグラ 田寉人
生のびてうたはるゝ也秋の蝉

秋の蝶

うき事をワすれて居れば秋の蝶
松シロ 機春女

秋の蛍

手のひらに甲斐なき秋のほたる哉
トベ 五風
秋の蛍露のうへほどひかりけり
山田 貞庵

(改頁) 原本 55

ひぐらし

蜩の啼やいよ/\くるゝ空
シバ原 汀鳥

秋はものゝ雫もよろし露の中
武 碓嶺
玉の名のあなかしましや露の降
越 蓬杣
投首(なげくび)の人ばかり也つゆの宿
今ヲカ 洋水
柴の戸に旭うれしや露ひかる
牧ノシマ 鶴汀
篠竹の葉末やつゆのおもミしる
羽ヲ僧 亀谷
つゆ寒し起ふし草の朝朗
ヤシロ 民草
うす履(ぐつ)や夜をこゝろミる門の露
白露を詠(ながめ)る心とはれけり
しらつゆや木々のあまりを人のうへ

(改頁)

朝霧やさびしい里の癖として
松代 亜物
あさぎりにしばらく冨士も見えぬ也
クサヲ 秀雅

扇置

一夜ふた夜月を柱やあふぎ置
ゼン光寺 呉融

あき風

ぬかぼしのこぼるゝ様に秋のかぜ
トグラ 児玖
垣ごしに赤子なく也あきのかぜ
馬の子のうしろくれ行秋の風
我髪の白きはいはずあきのかぜ

初嵐

はつ嵐ふくや波見る椽のうへ
シバ原 涼木

八朔

八朔の鶏あそばせるやしきかな
総 雨塘
八朔や草うごかして人の来る
東フク寺 月彦

(改頁)

八朔や世間の人の朝心
八朔や穂に出る草はミな日和

暴風

くちなハの衣吹ちぎる野分かな

きぬた

よるごとにきけどさびしき碪かな
在信少年 之玄
衣うつ音や小薮のやミ深し
相 周司
うつやきぬた寺の隣も寺ながら
松シロ 素弓
小夜碪寝てきくよりの外ハなし
世の中や馬も寝入に碪打

案山子

うごくかと思へハうごくかゞし哉
松本 月台
畑ぬしによく似たといふかゞし哉
西デラヲ ノ左
雨のかゞしふたつにふたつ倒れけり

なるこ

かへるやら鳴子はやめて十ばかり
雲 千萩
夕かげやなるこのつなの渋うちハ

引板

かち道やひたに驚く星月夜

鳥おどし

足もとが近江のうミぞ鳥威し
豊 葵亭

待宵

まつ宵やこゝろもとなき俄(にわか)ばれ
待宵のくもりハきりになりやすし

名月

名月や四時かやうの天のはら
摂 万和
名月の山とて来たか里の犬
南郷 自耕
名月やつきおくれたる寺の鐘
クサヲ 盛斎

(改頁) 原本 56

名月やはるゝをまてば身にふける
シホ尻僧 三楽
めいげつに心のよくをはなれたり
くもるとハ人のうへ也けふの月

此夜此山のあるじぶりして

さらしなや月見とゞけて草枕

おもふ事絶て過たる月夜かな
松シロ 馬台
山の月たき火に露をむすぶまで
相ノシマ 逸止
月に雨しばらくぬれて歩行けり
サカキ 楨雅

乕杖庵を訪ふ

去年(こぞ)のけふに思ひをかへす月夜哉
上田僧 月畒
思ふことミな哀なるつきよ哉
ヒロ田 島花
真夜の月落るけしきハ見えぬ也

(改頁)

篳篥(ひちりき)に頬ふくらかす月夜哉

三日月

三日月の浪路はるかにくれにけり
ヤシロ 常人
澄行や三日の夜よりの秋の月

既望

いざよひや白子桜のけぢめなき
松シロ 玉麿
既望ハいざよふうちの詠かな
いざよひや峯をはなれて常の月

はつ汐

はつ汐の底に浜荻しづまりぬ
西デラヲ 亀石
初汐や芦火にあかき人のすね

放生会

放生会人にまことのあればこそ
馬流 笋孝

すゝき

棒先に来たりすゝきのあまり風
甲 一作

(改頁) 原本 57

面白い日のくれ様ぞ花すゝき
シホノ 浅間丸
するとなく墨をへらしぬ花芒
今ザト 起斎
行我に風たちにけりはなすゝき

芙蓉

ひや汁も名残といふや芙蓉散
武 応々
うらむべき秋にもあらず芙蓉咲
寂マク 花葎

吾亦紅

ちぎれたるワらぢ見せけりわれもこう
武 径羽
世にそまぬ花のすがたやわれもこう
上田 雲帯

葛の花老し桜にかたよりぬ
ハセ 里桂

花野

見通しに畑をかよふ花野かな
ミツマタ 甫喬
嚔(くつさめ)は花野のすゑのあらし哉

(改頁)

みたりの居士たちと風雅の交あさからざりし。中にもありのミの翁には年ごろ其有を聞しかば今におもひいづる事のミにてたゞ慈父のわかれにひとしくすゞろにこぼるゝなミだをとゞめかねて

置露にそへてたつなる花野哉
貞松

(改頁) 原本 58

桔梗

註:「十一童就夫(印)」による桔梗の彩色摺の図

(改頁)

野ぎく

月落て野菊捨たる六位かな
ハセ 東器

つた

見て居ればものゝふる也蔦の宿

鶏頭

鶏頭や草の中より秋の色
ヤハタ僧 塵除
けいとうに露けき色ハなかりけり

紫苑

夕暮や紫苑にかゝる山の影
備 閑斎

ほゝづき

鬼灯は草の贔屓(ひいき)にあづかりぬ
ハセ 右喬

渡り鳥

曙やいづこをさしてワたりどり
北ハラ 李仙女

桜の木を切のこされて鵙のなく
臼田 皀斎
鵙啼や日落て高きあさま山
ゝ 月邦

しぎ

鴫たつや灯のとぼりたる弁才天
ワカミヤ僧 大畳

(改頁) 原本 59

行人の鴫より早く暮にけり

曂くさき夜着をかりけり鴈の声
武 故叟
どこからかぬれて来つらん雨の雁
シンデン 孔左
雁の声月のあらしも消ぬべし
かりなくや人ハ寝ぐせのつきやすき

燕かへる

帰る乙鳥はしなく暮て庭の月
ゼン光寺 長荘

うづら

風道を野のはつ声や朝うづら
上 川二

鶺令(ママ)

せきれいや浮木ひろひにそれて行

木啄鳥(ママ)

木啄鳥(ママ)の木屑こぼせし額哉
在信 晴蔭
きつゝきの音やどこからさむさくる
寂マク 柏鶏

(改頁)

木つゝきや庭にハ松のひと木のミ
ウチ川 君綾

落あゆ

あゆハ瀬にさびつく程の思ひ哉
イナリ山 烏調
落あゆや水にさだまる夜の声
ゼン光寺 白理
おち鮎につれなき水のいかりかな

しか

鹿聞てかへる処もたびのやど
羽 仙風
鹿の声唐黍こして雨のふる
武 古玄
松風のうら門近し雨のしか
トグラ 斗溟
啼鹿も月恋しいか三笠山
中ジマ 路尹
妻乞といふハまことかあめのしか
ワカミヤ 量尺
鹿の啼うしろに月のはやし哉

(改頁) 原本 60

落し水

落し水獺(うそ)も迯なば追まじき
中ノ条 吟草
吹つのる野風のはてや落し水
アミカケ 桂墨

秋の野

秋の野やつくらぬ花ハ色のよき

秋の山

にぎやかに成てさびしさや秋の山
松シロ 一圭
見て居れバくれごゝろ也あきのやま
ヤシロ 千翠
さびしさにワすれてハ見る秋の山

きくの日や病ひけもなき人ばかり
相僧 南護
山の井の水くみに来てきくのはな
加 甘谷
菊の花九日もこぬにもらはるゝ
トフク寺 雪二
きくの花いかにもちりを離れけり
川合 蘭朝

(改頁)

重陽の日かくれ家に世を観ず

酒は人にさハがしき也きくの花
いろ/\に詠るきくの祝ひかな
菊咲やつくりあまりハミなあかき
きくの香に古き心の起りけり

宝の市

升買ふて浮世の市に似たる哉

茸狩

たけがりやさぐりあてたる蟇
ヤハタ 都邑
山の香やかりのこされし名なし茸
きつね火やたけがりかへるあとのやま

松茸

まつたけの土うがつ香を旭かな
アミカケ 乕嘯

稲刈

青稲を刈もなんぞのいそぎ哉
トグラ 金翠

(改頁) 原本 61

稲を刈中や小草のおくれ咲
ワカミヤ 花席

晩稲

里の晩稲(おくて)ものをいそがぬけしき也
神バタケ 此蛍
冨士澄ときかぬ日もなしおくて刈
武 伯夫

蕎麦の花

そばの花ちりもはたさずミのるかな

后の月

刈萱の音して更て十三夜
武 幸雄
のちの月まれ/\竹のミどりなる
羽 青橘
月や名残露氷るべき風がふく
刈ヤ原 豊雪
真向して居れば風あり后の月
五明 布川
月二夜山の老まで見て来たり

東武にありて師の没故をきゝ既こと葉絶たり。かぞふればけふハ

芳明忌也。たゞ御魂追ハんのこゝろして浅草寺にまうづ

(改頁)

南無大悲月の名残となきにけり
治泉

セきのとりなくまでくりを焼にけり
武 碩斉
手にとりて見ればから也くりのいが
クサヲ 佳泉

木の実

まだ若き木の実を猿のかなぐりぬ
ウチ川 一叟

紅葉

老もあかぬ詠ことありつたもみぢ
今ザト 孤松
世の秋のもだしかたなき紅葉かな
牧ノシマ 亀毛
ちるな/\人の見るまで梅もみぢ
サカキ 宇鶴
夕紅楓船に酔たるこゝろセリ
ワけいらば保んもミぢのはやし哉

(改頁) 原本 62

長夜

ながき夜を我にともなふ蚯蚓かな
豆僧 一瓢
長き夜や寝つく工夫にもてあます
ながきよにをだまきかへすとなりかな

夜寒

雨二日過てがくりと夜さむかな
一桃
くだかけの八声にたらぬ夜寒哉
アミカケ 文素
丘の火の此頃見えぬよさむ
ヤシロ 宇全
嚏や夜寒と申時ならん
山の鐘よさむまぎれにかぞへけり

朝寒

朝ざむや山伏いそぐはなれ里
トグラ 英鳥

網代打

さそハれて来た顔もあり網代打
クサヲ 偆花

(改頁)

新そば

新蕎麦や大根あらふ鬮(くじ)をひく
アハサ 一嵩
新そばをうつ音きくや宵の月
フク井 梅足

新酒

新酒のはづミや秋のおもしろき
中ゴミ 亜文

末枯

末枯や直路(すぐぢ)つけたるひとつ家

秋の雨

淋しければ人も来ぬ也秋のあめ
フク井 文岱
あきのあめ門を出れバくれぬなり

あきの暮

古郷やまつりのあとのあきのくれ
イナリ山 地遊
川端へ何をして来て秋のくれ
南郷 宗二
秋の暮老をとゞむる便なし
いつも暮る日ながら秋ハながれけり

(改頁) 原本 63

秋の空

こと/″\く星の遠さよ秋の空
アミカケ 吾風

行秋

行あきやすゝきもて茸家のうへ
サカキ 弓我
ゆくあきや戸なき家にも人の声
御平川 其白
行あきや心にうかぶおもしろミ
サカキ 浦松
ゆく秋の尾花がくれとなりにけり
越中 松斎
行秋や無念無想のうゆふながめ