神送
神送るあとどことなく風はげし
神の留守
ちからなの神のるす也山がらす
ばせを忌
猿に蓑着せん大事な時雨ふる
羽 文河
(改頁)
折添ん花はなくとも枯尾花
トグラ 春巣
時雨
何程かふると思へば我しぐれ
中ジマ 馬南
鴫たつ庵の墓前にて
声もしぐれならはぬ経をよむがごとし
相僧 吐丈
山松や時雨の脚をいくる経る
芸 篤老
とかくして月より起るしぐれ哉
タケフ 孝耕
しぐるゝハ身ひとつならね草の家
中ノ条 芳尺
ひそまりてしぐるゝ夜の湊かな
テラヲ 佳水
しぐるゝやひとりすゝらば粥の事
アヒ 素江
月星の下をしぐれて通りけり
トグラ 五鳳
ひとり入ふたり時雨の扉かな
棹鹿のかしら揃へて時雨けり
絶ず雲時雨てものゝなき野かな
小春
引窓に小春の山の蔭りけり
上田 露丸
けふ二日一時づゝのこはるかな
トグラ 圭黛
広き野や小春の雲のたち居見る
刈ヤ原 阿泉
世の小春人にあらしハ絶ぬなり
長き日に心似て似ぬ小春かな
そば刈
蕎麦刈や客事ふくむ老の情
トベ 一軽
そばかりや雪もふるべき風がふく
トグラ 千年
麦蒔
麦蒔やいつか月夜に成て居る
中ジマ 梅也
(改頁)
むぎまきや蒔のばしたるはたけがち
アハサ 久河
大根引
紅葉ちる下もはたけか大根引
今ザト 卓雉
ひくや大根野守の僧が馬のつな
刈ヤド 柳圃
網代守
世を宇治の茶師ともならで網代守
羽 古翠
網代守なれもつま子のあるものか
干采
干菜して気色損じぬ軒の松
タケ原 暁花
くるゝ心ほしなの音にうつりけり
寂マク 喜文
口切
くちきりやまハりいそぎの文使
トベ僧 梅月
冬籠
北嵯峨や誰やらに似し冬籠
武 菊塢
翌ハまたあすに物問へ冬ごもり
羽 浅香女
冬籠朝日拝めと訪れけり
冬構
冬がまへ念入過てくらき也
十夜
上人の御耳かぞふる十夜かな
トグラ 可中
はつ雪
はつ雪を見る/\袖にうつりけり
牧ノシマ 守一
初雪や縄はつてある松のもと
テラヲ 露朝
はつゆきや心ばかりの降りやう
初雪や山は遠きにしくハなし
初雪や手にとれば蔦の青かづら
はつゆきやむざんに車ひきかける
(改頁)
はつ雪やのぼらば消ん峯の寺

註:「南喬(印)(印)」による女郎花の図。着彩。
遺言ありとて今の庵主より先師かたみの一号をおくられけるかたじけなさに
はつゆきにほろりとなみだこぼれけり
信長谷山主超悟更 天姥
夷講
筭(かぞ)へたる外に客ありゑびす講
ネヅミ 喜山
ゑびす講こがねのさたハきゝにくし
夷講さびしき下戸に生れたり
(改頁)
炬燵
更行やこたつに酔て窓の月
トグラ 与摘
閑室にこもりて春を待
置ごたつふたりとなれバきづかハし
弟(おと)の子がかしこくなほるこたつかな
火桶
火桶抱て出て見ん市のくづれやう
奥 蘭叟
浪風の静をかたる火桶かな
松シロ 寸龍
火鉢
とりのけし火鉢のあとのぬくミ哉
ハマン 葛古
川芎(おんなかずら)の匂ふひばちのほこりかな
ヲミ 杏母
紙子
空也寺の犬にかさうぞこの紙子
奥 冥々
身に世話のつく程夜のかみこ哉
アヒ 耕水
ふとん
よく寝入旅のつかれやミのぶとん
アハサ 理明
松風にくるまるやうなふとん哉
トベ 一中
頭巾
大黒の賛
正直の首(こうべ)をまもる頭巾哉
人老て頭巾にたくミなかりけり
ふすま
蚤に蚊にかくては霜の衾かな
足袋
たびはいて枡ふし寝るや旅労(づか)れ
フク井 菫雨女
茶の花
一目さへ枯行中を茶の木さく
在善光寺 春草
茶の花を霜とも見なす日かげ哉
北ハラ 星母女
ちやの花やたき火のあとの酒くさき
日をよ所に久しき花の茶の木哉
寒菊
かんぎくや浅き心の寝ざめぐさ
トベ 双布女
(改頁)
枇杷の花
ミのむしハからにもならず枇杷の花
トベ 汀雨
山茶花
さゞん花や黒き団子をさしむけて
庵中 菅女
冬牡丹
ふゆぼたんつくるひもなく咲にけり
トベ 竹海
ふゆ椿
下総ハ遠山のミぞ冬つばき
奥 夢南
かへり花
花の木や何をたよりにかへりざき
アヒ 星也
かへり花一日詠てワすれけり
枯ぎく
枯てのち見処多しきくの花
ゼン光寺 伯希
かれぎくやたばねて見れば嵩のなき
トベ 指桂
枯芦(芒)
獺のかれあし原をかられけり
かはる度にながめありけり枯芒
アハサ 春雅
枯すゝき其まゝふとる日もあるか
アハサ 文舎
故郷や月おしなべてかれすすき
枯尾花
尾花より先にかれたる草もあり
ハセ兄次改 古慊
かれ野
松風のつよきゆくへを枯野かな
キジマ 左淵
かれ野ゆく老が念仏のきこえけり
シン田 虚十
いかめしく枯野を通る女かな
刈ヤ原 可逕
人たちやかれのに車くつがへし
きり捨の石に雨ふる枯野哉
かれ柳
かくまでもうつる姿やかれやなぎ
トベ 吟台
枯柳されどもものにまぎれざる
アハサ 雄戈
(改頁)
あかるくハなれども淋し枯柳
大ツカ 仙禾
冬枯
ふゆがれや雲雀の歩行水のあと
摂 北映
枯はてゝ見なれし山もなき暮て
小モロ 巵中
冬枯や遠き野水を家にのく
トクマ 文杖
ふゆがれやあがさくらぎのたきゞ売
冬がれや花も実もなき石仏
こがらし
木枯風のほとりや松の枯のづら
長 羅風
こがらしになる有明ハ哀なり
甲 蟹守
こがらしや松原越てくるゝ声
シホザキ 荷水
木の葉
木の葉ふる音に柊の月夜哉
トベ 似月
梟の真向に風の木の葉かな
落葉
水の落葉一かたまりに流れけり
中ゴミ 素文女
水くめば落葉が来るよ野の井筒
牧タナカ 菫鳥
五六間いざりすり行落葉哉
猪垣の落葉の中に倒れけり
炭
其まゝに置かば花なれすみ匂ふ
八幡僧 荷翁
鴛鴦(おしどり)
をし鳥や一羽ハたゝぬ水の音
かゐつぶり
どこをきてふえて見せしぞかゐつぶり
フク井僧 独山
千鳥
ありがたき月日よごしてなく千鳥
武 可布
行燈(あんどん)の消ためとしてちどりなく
南郷 宗泉
(改頁)
なく衛友をしたふか淋しいか
シンデン 良歌
引かへし鳴時月のちどり哉
小夜千鳥人をなかする声ぞかし
水鳥
たかなみに水鳥の背のかくれけり
トクマ 茗耳
水鳥のさめ/″\たちて詠あり
川田 芦逸
水鳥や舟かざしゆくしらぬ人
中ゴミ 里泉
水鳥や尾の先見ゆる草の中
寂マク 葓雪
池水に友なきとりの哀也
ヤハタ 秀月
水鳥の思ふ処にうかみけり
炬火に水をはなるゝよるの鳥
野鴨
烏鳴夕を鴨のうき寝かな
相 桧路
おもむきのかはる瀬音や鴨の声
寂マク 文甫
芦に月さす夜ハいかにかもの声
トグラ 柳貞
一嵐鴨かたまりぬ芦のもと
サカキ 如水
あたゝかに寝る鳥もあり夜の鴨
なまこ
船尻にふいと浮たる生海鼠哉
鮟鱇
あんこうハ吼もしつべきかたちかな
冬の蠅
冬の蠅はづべき時に至るかな
埃ともならで来にけり冬の蠅
ふしづけ
罧(ふしづけ)や芦の焚火に風おこる
刈ヤ原 百河
(改頁)
寒さ
世の中にすつるものなきさむさ哉
武 五渡
飛鳥のねらひの違ふ寒さかな
上 芳竹
さむしとて人ハ酒のむ夕かな
トチクボ 文橋
磬(けい)の音をふすま一重にさむさかな
御取越
もろともに心ミがくやおとりこし
トベ 魚双
十月
十月や船炟(おこ)る火を見てかへる
トグラ 浜古
冬の日
冬の日へ鶴の十歩にあまりけり
越 幽嘯
ふゆの日のわたればくるゝ岬かな
冬の月
海遠しひれふる山の冬のつき
相 巴江
冬の月松にはなれぬけしきセん
ゼン光寺 緑雨
松かげや温石さぐる冬の月
冬の月すさまじくなりて入にけり
冬の夜
冬の夜に人ハどふして寝ざりける
ウチ川 菊年
ふゆの夜や松かさをたくあるじぶり
ヒガノ 其咄
冬の夜や枕もとより風起る
アハサ 成篤
神楽
工ある顔セぬ神楽男かな
ハセ 文考
埋火
埋火に穴のあいたるゆふべ哉
牧ノシマ僧 斗雪
埋火にありたけの心つくしけり
ほた
すさまじく燃る音也昼の榾
鉢たゝき
鉢叩向ふや草ハミなほとけ
武 詠帰
(改頁)
おもしろきなりぞ月夜の鉢たたき
アヒ 亭山
鉢敲仏づとめのひとくさか
大師講
大師講せめて焚火のもえよかし
冬至
薬にもならん冬至の雪花菜汁(おからじる)
トグラ 麦雨
納豆
たづぬれば皆縁者也納豆汁
アヒ 月国
蛎
塵わけや燭のはねたるかきの露
冬木立
ひとりゆく長ワきざしや冬木立
ウスダ 白峯
冬木立寺山と名に呼れけり
冬の山
なれつゝも遠く見えけり冬の山
アハサ 花雪
ふゆの山あらしの起り見付たり
ふゆの梅
冬の梅日をほめながら人が来る
アヒノシマ 芎雨
ふゆの梅心しづむるばかり也
アハサ 菊泉
水仙
水仙に終あやまちぬ硯水
中込 菊雄
水仙やこも着る人も世をバ経る
サカキ 逸竹
すいセんや小家ながらもよき居なし
テラヲ 松月
水仙に筆架倒れて花むなし
葱
ねぎの香を酒のからミにワすれ鳬
牧田ナカ 雲頂
鷹
山風にするどきたかの眼かな
下イチバ 伯母
一概に鷹行方ハ山もなし
ぬくめ鳥
暖め鳥はなたれてこす大木哉
アハサ 松霞
(改頁)
ぬくめ鳥我温石ハさめにけり
□(鷦)鷯
うら山ハ風がなる也ミそさゞゐ
ヤシマ 菊母女
木兎
ミゝづくのなかでくれたるやしろ哉
在サカキ 千鯉
霜
啼よりもうごく哀や霜のむし
ゼン光寺 五什
霜置ん月のある夜に星かるし
ゝ 白堂
木々のしも心よし野の奥に似
ゝ □
霜の戸や焚火くろミの人の顔
二柳 有暁
くれてやる子の沙汰もあり霜の宿
草の戸やミのむしならぬ霜の声
霜の戸や我臆病ハ人もしる
霜夜
夜をふミてわたくしになく霜のとり
相 白蜅
しもの夜や鼡のさハぐ枕もと
杭セケ 一朗
庵の閑夜の霜ふむ人を思ふ
トグラ僧 汀鵝
霜の夜やあさのしもふむくつ作り
ゆき
雪見るハ旅セぬ時の栄花哉
奥 曰人
庵の夜や雪のあかりの用がまし
羽僧 河道
けぶらずバちいさくならん雪の家
武僧 六因
庵の雪心の外をふりつもる
ゼン光寺 進斎
戸口まで深山の空ぞ蔦のゆき
羽 呉山
其まゝに捨てハ置かじ雪の笠
川口 佳雪
(改頁)
夜をつむや野越の的の雪白き
ワカミヤ 里丈
雪の戸やくれて明るき書のうへ
ゝ 麦悟
旅人はうちはらふ也かさのゆき
カキ山 氷母
大船のかこひ済けりけさの雪
相ノシマ 羅鳥
箒もたぬ常ハはづかし雪の門
アヒ 寿水
浅間根や風のなき日も雪つぶて
井ノ上 桜波
風呂の火をのぞいて行やゆきの人
アヒ 文河
雪の日やつれ/″\つくるひねり状
モリ 含古
我にふる雪を山見てあきれたり
油断して雪はかれたる戸口かな
雪の原風にかくるゝ処なし
ゆきの門我におとらぬ朝寝見る
つむ雪や烏ハ軒の唐がらし
鹿をくらふ人おそろしや夜の雪
雪吹
馬士のつよき姿も雪吹かな
上トグラ 芠(ママ)溪
大鳥のふゞかれて居るはやし哉
中ザハ 竹年
行人の肩ごし原の雪吹哉
あられ
夕あられ珠数の玉程てりにけり
トグラ僧 指空
児の情あられにしばしミだれけり
ワカミヤ 左来
白雪や投出すやうにあられふる
セト川 甫川
(改頁)
馬盥(まだらい)にかたげて見たるあられ哉
みぞれ
薮竹や朝のミぞれのぬれすゞめ
山ブセ 布山
くだかけの門にミぞるゝ蹴合かな
氷
滝壺やさゝ葉吹ちる薄ごほり
越 東峨
吹つけて其まゝたきの氷かな
竹ブ 春水
更る夜や鐘も時計も氷る声
アヒ 巴年
ゆらぐ藻にとゞきかねたり薄氷
つらゝ
草の戸や軒の氷柱に月凄き
ヒクマ 素谷
藁をうつひゞきの来たるつらゝ哉
松シロ 大暁
凍
朝風や亀の凍たる大盥
そり
そりひくや旭さすとて一さハギ
アハサ 冨久
引捨し雪車(そり)の地蔵や門の月
かんぢき
橇やこしの瓢は何のため
シホザキ 素柳
年木樵
世の中の桜いたはれ年木こり
サカキ 鶏兄
かん
今明る寒や水田の光先
野 魚辰
南天の赤きばかりぞ寒の中
ゝ 嵐斉
寒月
寒月の土橋に躍る狢(むじな)かな
ハマン 梅年
寒声
かん声のしばらく滝にうつりけり
アハサ 可孝
寒声にすごき雨夜は晴にけり
ウチ川 苣生
寒念仏
いく夜さの哀になれてかんねぶつ
上 綾臥
(改頁)
深切をてらす月夜や寒念仏
中ジマ 仙露
月ハゆミにかへる頃也かんねぶつ
さなくとも更行門を寒念仏
臘八
臘八(ろうはち)やあかるくなれば夜も明る
師走
疑ふな師走の野らも霞ひく
ヲカ田 兆曰
鍛冶が鎚音や師走の夜もすがら
相ノシマ 翠雨
心なく廾日越しを師走哉
何もセず師走の心さハがしき
節季候
かへるさを見れば白髪よ節季候
金井 路水
おもしろく生れし人よ節季候
ヒナサハ 梅亭
節季候があとへまはるやさかな売
サカキ 千溪
かくれ家の門もさハがし節季候
杭セケ 河柳女
年忘
編(ママ)屈ハ人の損也としワすれ
中ジマ 冨席
迯出すを追くる友や年忘
カキ山 吾竹
そこらうち蝋燭たてんとしワすれ
すゝはき
すてゝやるもの更になしすゝ払
サカキ 一鴬
竹売がまねて見セけり煤払
ナツハ 花明
仏檀(ママ)を老がいそぎやすゝはらひ
ヒナザハ 槿風
煤とりし宵ハ鼡も静也
ヤマダ 冠可
すゝはいて懐あぶるたき火哉
キタ原 九谷
(改頁)
よろづ代のすゝによごるゝ此日かな
煤の日や酒買に行すゝの人
豆うつ
のさ/\と御簾まぢかし豆ばやし
行年
ゆくとしや青い物から夜の明る
勢 省吾
年の暮
あすしらぬ身をミちのくに年の暮
意橘
餅搗
もちつきのけぶりにつゝむともし哉
北ハラ 蘭雨
餅つきやすこしもちたる春心
アハサ 真秀
大三十日
一しきり長閑になりぬ大三十日
野 百樗
何をしてけふとなりしぞ大晦日
寂マク 其龍
怠らで日ハめぐりけり大ミそか
除夜
除夜の空おしまぬ人の哀也
年とり
年とりに来てよ嫁子になる始
ウスダ 桜叟
としの夜
年よるを手がらにいそぐ一夜哉
ワカミヤ 文海
としセまりて人の老行一夜かな
年の夜ハかぎりなき夜のしをり哉
追加
大年の日まで提けりひのきがさ
周 寸風
年内立春
年の内にもれ出て凍なはるの水
加 甘行