[翻刻]

原本3

ますら雄が身の丈を見んあやめ草
麦二

軒の山より若葉ふく風

〔あやめ草の青きに又若葉の色をそへたるは植物の手柄うすかるべき也〕

陶(スヘモノ)の轆轤もゆがむ夕ぐれに
雲帯

待ほどもなく舟はつきけり

(改頁) 原本4

餉(カレイヽ)を見てなれ啼か鷺からす

五文字いひ風て(ママ)独手をうツ
如毛

むら竹は月のためにもたハミしか

垣をへだてゝ虫のさま/゛\

 〔鳥と虫二句去りにて嫌ふべきにもあらねど何れも鳴さまあれば表の見倒しおかしかるまじくや〕

(改頁)

裏(ウラ)嵯峨は見所多き秋の風
争茂

     〔打こしの変化今少し。残念〕(印①)

傘を□セて行人はたれ(印②③)
露蓋
左衛門へ今生れしと出ずやらん
明るさかいをほとゝぎす啼

 〔鳥と鳥の啼は七句去りなれど表裏とかハりたれば苦かるまじ〕

(改頁)原本5

跡やさき迯る廓のもの凄き

かり着はかなく残る移り香

つれ/゛\の数に夕を松植て

菩薩にきりし利根川の石

(改頁)

村長の酒癖わるき月一夜

躍子供の労れおかしき

繕いて作るもよしやふくべ垣

 〔利根川の玉句より四句続て鄙めきし躰にてハ残念〕

櫛の歯挽か眼鏡古びし

(改頁)原本6

世の中よ心/\(ママ)に華も見て

紙衣羽織の春をたゝませ

 〔玉句老の姿ありて打こしいかゞならんか〕

夕げしき出代馴て窓覗(ノゾ)き

 〔打こし見てとあり、覗とハ嫌ふべきや〕

放下の玉のおちてころ/\

(改頁)

汐時ハ熱海(アタミ)の温泉のさハがしき

 〔前句の放下左右へ引張つけなるべし〕

かりそめ事も恋のはしくれ(印④)

埋火を千首の太輔くツろぎて

雪ふりかゝる小菜の美し

(改頁)原本7

朝ぼらけ鱈つり船の帰るとて

狸の宮を造りかへたり

悪太郎迯し庄屋が咳払

〔帰るも迯しも歩行の躰ならんか。勿論迯しは過去ながら〕

盗ミのこりの瞿麦(ナデシコ)に露

 〔悪太郎に盗とはあまりしたしからんや〕

(改頁)

妓王寺のかねも幽(カスカ)に夕間ぐれ

 〔夕見渡しにあり。近し〕

灸仕舞ていり豆の□

君が代や人うるハしき月の秋

萩ちりこミし野袴の裙

(改頁)原本8

ニウ

放れ駒霧にかぶるゝあたり迄

銅の鳥井に抱ついて見る

琴の曲耳をよすれバ遠からず

あられうちけす衭挑灯

(改頁)

わや/\と十夜戻りの下駄の音

 〔打こし琴の音の玉句なるべし。下駄の音少し残念〕

こんにゃく(蒟蒻)踏ミに京へやとわれ

いにしへはせなも手児女も歌よミて

児なれし鳩に餌を蒔てやる

(改頁)原本9

鼡尾草の雫に月はのこる也
流れにうツる野路の送り火(印②)

蟷螂の人中へ出てなぶらるゝ

太鼓ハ空にひゞく普請場

 〔家にも(普)請にはあるまじ。宮寺の普請ならんか。何とやら御句の仕立川除道橋などの普請と聞へて打こしのがれ兼候にや〕

(改頁)

海づらも花よりかゝる山かづら

 〔水辺三句去りなり。一句近し〕

向ひあひたる雉子の□り毛

三ウ

 あれが常の笠置の解脱霞ミ行

〔山かつらは暁の空なり。雲も霞も聳ものなれば打こしては悪し〕

茶の水汲にはづす窓ぶた

(改頁)原本10

笋の竹にかたまる霖雨也(印①)

 〔聳物と降ものは二句去りなり。打こしいかゞなれど〕

夫は博多へ歩にさゝれたり(印②⑤)
琴箱につまヅくやうな夢を見て

 〔琴は百韻にひとツなれど琴箱とハ苦しかるまじきか〕

夜明おろしは山里の癖

 〔博多地名なり。里と打越いかゞならん〕

(改頁)

鳥罠(わな)にいらぬ鼬(いたち)のかゝりしよ(印①)
年貢しまへバ年もかぞえ日(印①)

 〔田舎の躰打こし残念〕

はふり子が娵(よめ)まツ門の松明(まつ)明り(印②)

 〔これ迄四句鄙めきたれど〕

富士も築(ママ)波も眼の先にあり

(改頁)原本11

釣舟の妙な所へふかれ出て

夕めし頃を碁に負けてたつ

木履の緒きれたうしろに月のさす

砂にまぶれて雁のはらばふ

(改頁)

三ウ

焚ものに案山子もなるか秋の果(はて)

 〔雁に案山子とは好ましくや〕

仏の弟子に貰ふひろひ子
応仁の乱れも過て茶を挽せ(印①)
畳の上に青葉影さす

(改頁)原本12

何として棚から落し絵具皿

 〔茶の湯と画と例の引さき附(ママ)ならんか〕

天窓(あたま)の長き例の狂歌師

飼猿が酌の禿(かむろ)とたハれごと

 〔狂哥をたハれ哥ともいへばたハれ言とはおかしからず〕

おもひやらるゝ翌(あす)のきぬ/゛\

(改頁)

壁にはふ葎に迄も雨の月

零餘子(むかご)汁すふ秋のはツ物

蛼(こおろぎ)がはやらぬ医師に飛つひて

嘘つき上手上坐するなり

 〔壁も座も居所なり。三句去るべし〕

(改頁)原本13

棟あげて最中の花を目の下に(印④)
風そよりともせぬ弥生空(印①)

ナヲ

親しらず子知らず春の波越へて

追人ふたりが競ふ辻占

(改頁)

門鉢を息つきあへず心太

 〔御前句辻占一句の御作意ともに恋になるべきや。占は恋のあつかひありたし〕

松も柏も入梅ばれの色

筥崎にちかひを結ぶいわた帯

 〔打こし恋にならばいわた帯はいかゞならん〕

主殿之助は簾隔て

(改頁)原本14

打あげし御太刀に鍛冶ハうヅくまり(印①)

大さかヅきにうつる満月

声あるも声なき虫も飛違ひ

山にからむ蔦のほそ道

(改頁)

墨染に世をバ捨てもひもじくて(印①)
ふくら雀も来啼雪の日

松かさハ焚さすなりに燃しさり

〔一句の淋しミ打こしにいかゞあらん〕

あるじといふももろ白髪なり

〔諸白髪は恋なり。端の句に恋を出せるは好まず〕

(改頁)原本15

ナウ

御勅使も味ひ給ふ瀧の水(印②)
日本晴をはツ蝉の声(印①)

鮓の名も一夜とかわる頃なれや

 〔打こし味ひとあれば食類打こし遠慮ありたし〕

琵琶に鼾もひゞくうたゝ寝

 〔打こし蝉の声ながら鼾のひゞくも声あればおかしからず〕

(改頁)

島守が五十過まであほふにて

 鶏卵のからに風暮る也

二三片花もちり来る酒の中

 〔風に花の散るとの御附(ママ)はハいかゞなるべし。又数字一句狭(ママ)ミも見渡しおかしからねど〕

枕にすべく萌るもゝくさ

(改頁)原本16

鳳玉濃

停雲
(印)(印)

(改頁)

(印)仏の弟子に貰ふ
ひろひ子(印)

 

※註・点帖には、巻中第一の付句を末尾に記す作法があった。この句は争茂の作で3枚目の裏2句目に見える。