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[解題]
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書名にある「万石通」とは、玄米を白米と糠にふるい分ける農具の一種で、この意を利かせて、大名を文に秀でた者、武に秀でた者にふるい分ける本作の趣向とした。「上」「中」「下」があり、次第に細かくふるい分ける策が講じられている。
天下を治めた源頼朝は重臣畠山重忠に、「われ四海を治めしより、日本の大名小名安堵の思ひをなすといへども、武備におこたる心生ずべし」と武士たちの気の緩みに関する懸念を伝え、「鎌倉の大小名、文に傾くもの何ほど、武にはやるもの何ほどといふ事を、汝が智恵をもってはかるべし」と申し付ける。重忠はそれに対して「文武兼備したる武士はなければ、どちらへか片寄り申べし。又、文でもなく武でもなき、ぬらくら武士多かるべし」と答える。
重忠は策その一として「富士山の中に不老不死の薬あり。この薬を求むべし」と大名たちに伝える。人穴の中にはさらに三つの穴があり、風流を好む士は「文雅洞」へ、腕に心得がある士は「妖怪窟」へ、ぬらくら大名は「長生不老門」へ向かう。最も多かったのはぬらくら大名だったことを頼朝に報告する。
重忠はぬらくら大名をさらに篩(ふるい)にかけようと、21日間の箱根七湯での湯治休暇を与え、彼らが何に興じるか見極める策に出る。大名たちは七湯に分かれ、けまり、茶の湯、生け花、香合せ、碁や将棋、芸者遊び、かるた、和歌、鼓、揚弓、相撲などを楽しむ。重忠と家臣本田二郎らは大名たちの振舞いによって、武に近い者、文に近い者とぬらくら度合いを帳面に記す。
重忠はぬらくら大名たちにお灸を据えるため、財産を没収しようと策その三を打つ。箱根からの帰途にある相模川をわざと氾濫させて、大名たちを大磯に逗留させる。大名たちは重忠の罠にはまり、芸者遊びにうつつをぬかして三万両の借金を抱えこむ。 ほうほうの体で江戸に戻ったぬらくら大名たちに頼朝は「さきに重忠に謀らせ、文武の性をふるひ分け、ぬらくらの面々は七湯にてさらし、大磯にて身上をふるはせ、文武二道にみち引かしむ。自今以後それぞれに文武の道を学ぶべし」。一同「ありがたふ存じたてまつります」。
本書は刊行まもなく大評判を呼び、市中たちまち売り切れになったと伝えられるが、いま読んでも非常に面白い。次々に繰り広げられる、大名たちを篩にかける重忠の万石通の策が読者を惹きつける。