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[解題]
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曲亭馬琴作・北尾重政画の黄表紙。享和元年(1801年)刊。作者の曲亭馬琴は1800年代前半の代表的読本作者である。
本書は、煙草道具店の箪笥の中で深い仲になった煙管と煙草入れを擬人化した寓話。それぞれ別の客に買われ、離れ離れになった悲しみと紆余曲折を描く。
煙管は硬いので男性、煙草入れは柔らかいので女性の設定。煙管は、ある廓の「たとへ」という名の花魁の元に来た。美しい花魁と居ても煙草入れのことを思い詰めて心が浮かない。煙草入れは、「無名次」という名の男に買い取られた。恋しい煙管のことを慕って明け暮らしている。
ところが縁は不思議なもので、無名次はたとへの廓に通っていて、煙管と煙草入れはそこで再び出会う。無名次は、この煙草入れを持ってからは、たとへの吸付け煙草が好ましく、どんなに忙しい日でも寄って帰るようになった。たとへは、無名次の煙草入れを見ない日は気が塞ぐようになった。
しかし、遊び歩く無名次を心配して、親や親類が廓通いをやめさせようとする。無名次とたとへは、この世では添えないと考え、無鉄砲にも廓を抜け出て共に死のうと心中の道行となる。ここで文字が浄瑠璃文字風になる。浄瑠璃で心中物が人気であることに引っ掛けた作者の遊び心だろう。
このように、無名次とたとへ、煙管と煙草入れ、二組の男女の悲恋がない交ぜとなって話が進み、再び引き離されてさらなる試練が降りかかる。
実は、この煙管と煙草入れは、作者の馬琴の師匠筋にあたる、戯作者の山東京伝が営む店の品物という設定で、本書はその宣伝を兼ねている。
さらには、たとへに「煙管は京伝の所のが一番いい」と言わせているし、書名の「京伝張」は京伝の店の煙管の商品名でもあるようだから、もう宣伝そのものと言える。
江戸時代後期は、引札などの広告文化が発展した時期でもある。本書は、その中で生まれた「タイアップ広告」として、広告の歴史の中に位置づけることができる。