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諸事情により、初編・二編は翻刻された書籍からの抜粋、三編・四編は花月文庫所蔵の和本を公開します。
[解題]
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諸事情により、初編・二編は翻刻された書籍からの抜粋、三編・四編は花月文庫所蔵の和本を公開します。
式亭三馬の四編四冊の滑稽本。初編は文化9(1812)年、二編は同10年、三編は同12年、四編は「癖所謂癖物語(くせというくせものがたり)」の角書。文政元(1818)年に刊行。
各編で描かれている代表的な癖を列挙してみると、初編では「女房をこはがる亭主の癖」「人の非を数ふる人の癖」等。二編では「陰で舌を出す人の癖」「浮虚(うわき)なる人の癖並(ならび)に不実者の癖」等。三編で「近所合壁(きんじょがっぺき)の奴婢(めしつかい)を会(あつ)めて世間話を好く人の癖」「他(よそ)に遊ばれさうなる人の癖」等。四編は「言語(ことば)に可咲(おかしみ)を含みて教諭(きやうゆ)する人の癖」「極楽蜻蛉と呼(よば)るゝ人の癖」等で全体27の「癖」の話で構成してある。
『四十八癖』で描くのは『酩酔気質』等の酔漢の酒癖描写を離れて、世俗を生きてゆく人間の「癖」となり、それを全四編に発展したものである。世間の普通の類型的な人の性格が取り上げられている。とりわけ初編「人の非を数ふる人の癖」での裏長屋の昼前の女同士の話、二編「浮虚なる人の癖並に不実者の癖」の性悪娘と浮気女房の世間話、三編の「「近所合壁の奴婢を会めて世間話を好く人の癖」の壁を隔てた棟割長屋での女たちの会話に注目したい。
ここに江戸の文化期の長屋の女たちのおしゃべりが見事に典型化されていると思われる。女たちの言葉遣いを軸に、各々の性格描写といってよいほどの裏長屋の生活の雰囲気を描写しているのだ。文句なしにおかしく、かつ軽い笑いを誘っているように思われる。裏長屋の義理人情、奉公人の人付き合い、夫婦喧嘩等、またこれらについての処世訓を女のおしゃべりのセリフとして表現している。このおしゃべりの描写は三馬独自の新境地を開いたのではないかと思われる。
三馬は『四十八癖』で多岐にわたる人間の癖が、単なる登場する一人物の癖にとどまらず、読者が我が身に引き比べて読み込んでいくことができる普遍性を描いたと思われる。ただ四編はあまり滑稽本としてはあまり面白くないがいかがか。