画像をクリックすると原本の高精細画像が表示されます。
[解説]
「信濃地名考」は、佐久郡岩村田の吉沢好謙が著わした信濃全国の地名を考証した本である。すでに『信濃史料叢書(上)』、『新編信濃史料叢書(第一巻)』に翻刻され収録されている。版本であるので、県立長野図書館など多くの所蔵館がある。
本書は、上中下の三巻からなり、末尾に「信州岩村田 吉澤鶏山蔵板 安永二年癸巳春」と、最初に版本として発行した年が書かれている。鶏山は俳人としても名高い好謙の号である。また発行が「書肆 駿河屋重五郎」となっていて、本の紹介とともに書かれている。なお国立史料館のデータベースでは、発行年の後に「須原屋市兵衛」と最初の版元が記されているが、本書では記載がない。安永二年版の後刷と考えられる。
漢字表記や、助詞などに若干の違いがあるものの、『新編信濃史料叢書』などに掲載されているものと一致する。上巻では序や凡例などに続き、「科野之國形」として信濃国図に延喜式ほかから古駅や往古牧地名などを記している。本文は、律令国家と信濃国との関わりや各郡の駅などを叙述している。続く中・下巻は、御坂や園原といった地名を万葉集や古事記など使って紹介している。そこにも関係した郡の図が掲げられている。中・下巻には補遺があり、鬼無里に関わって大塔合戦のことや、中巻で飯田の西として紹介した風越山という名の山が、善光寺近くにもあることなどを記している。
この本の大きな特徴としては、貼り紙や書き込みが随所にみられることである。上巻には高遠城と飯山城、中巻には飯田城や松本城、海津城など、下巻には長沼城や上田城、小諸城などの図が挟み込まれている。貼り紙には、他の書物にはこう書かれているといった記述が多くある。例えば「千曲の真砂」には、信州には国外から流れ入る川はなく、この国を源にして天竜川や千曲川などが流れているなどといったことが書かれている。この他に『信濃国小県郡年表』などの著書で知られる上野尚志宛の手紙が挟み込まれている。そこには、木曽に行き『信濃地名考』の記述について地元の人に聞いたことや、松本の高美書店の話題などを記している。