昔々、江戸の頃のお話です。下総の国(千葉県)から、善光寺参りの旅人がやってきました。
旅人は白蓮坊という宿坊に泊まり、朝夕と善光寺にお参りをしました。
礼儀正しく信心深い人だったので、宿坊の人たちも丁重にもてなしました。
ある日、旅人は白蓮坊の住職に、
「善光寺様へ灯篭を寄進したいので、お取り計らいください。」
と、お願いしました。
住職は快く引き受け、さっそく石工(いしく)を呼びました。
石工と形や大きさなどを打ち合わせたところ、旅人はもう少し大きめにと注文をしました。
石工は「費用がかさみますよ」と言いましたが、旅人は「よろしゅうございます」と答え、結局高さ九尺(約2.7メートル)もの灯篭が出来上がりました。
また、旅人の希望で灯篭の正面には「永代常燈明」と刻まれました。
石工も旅人の信心の篤さを感じ、精魂込めて仕事にあたったので、10日ほどで灯篭は完成しました。
旅人も安心したのか、その晩はゆっくりと宿坊のお風呂につかりました。
旅人がお風呂に入っているおり、お小僧さんがお風呂場の行灯に油をさしに回ってきました。
油をさしおわり、顔を上げたお小僧さんは「わあー!」と大声をあげました。
お風呂で体を流していたのは、しっぽの太いムジナだったからです。
びっくりしたのは正体を見られたムジナでした。
鳴き声も上げず、そのまま逃げて姿を消してしまいました。
今もあの旅人が寄進したという灯篭は善光寺本堂の横に立っており、「ムジナ灯篭」と呼ばれ親しまれています。
なお、灯篭の裏側と側面には「念仏講中、寛保三年十一月中旬」と刻まれています。