正面の縁側には、建立当初からの瓢箪の埋木がある。恐らく節があって具合が悪かったのであろう。一方、正面中央に張出している向拝には四本の柱が建つが、向かって右より二番目の柱の正面を見ると、木目が複雑になっている所がある。凝視すると龍の顔(両眼と鼻筋。下を向く)が彷彿として来る箇所がある。その少し上方には楕円形の埋木があり、本堂の中央に立って斜めに見上げると円に近くなり、月に見える。更に、龍の下方には杯の埋木がある。これらを一連の繋がりとして解釈すると「龍が瓢箪の酒を、月見で一杯」の姿である事が窺える。木目を龍の顔に見立てた、江戸時代の粋(いき)な遊び心が正(まさ)しく此処に表現されていると云えよう。これが意図的である事は明白である。木目が綺麗でない木肌は、目立たない隅の柱とし、裹を向けておくのが通常だからである。
[埋木] 中央に龍の木目、上方に月の埋木、下方に杯の埋木がある。
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今回の修理工事では、田中健太郎棟梁が江戸時代の瀧川喜右ヱ門棟梁に負けじと、某所に平成の粋(いき)を凝らした。何処であるかは、皆さん方で是非探して戴きたい。
(更に本堂に就いて深く知りたい方は、拙稿『重要文化財勝興寺本堂 保存修理工事報告書』(平成十七年三月刊)を図書館等にて御覧下さい。)
本堂 正面図
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