解題・説明
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昭和三十年(一九五五)に廣福寺(熊本県玉名市)において見出され、後に總持寺に献納された墨跡である。本文は明峰素哲(一二七七~一三五〇)、写真末尾五行の奥書・花押部分は瑩山禅師の筆と考えられている。書写年時は、本文中に「元亨」の元号が記されるため、元亨元年(一三二一)から瑩山禅師示寂までの間と考えられる。 本墨跡は両面に記事があり、写真を掲載した面は裏面と思われる。参考資料として、写真を掲載していない表面の本文も翻刻のみ掲載した。また、破損部分の文字は、近世・江戸時代末期頃に本墨跡を含む廣福寺所蔵文献を書写してまとめた冊子『広福現蔵』によって補って示した。 表面では、嗣法・伝法の真義を、梅・松・柳の「三木」と竹の「一草」の四段に分けて説く。裏面では「菩薩戒相伝事」として、日本曹洞宗の授戒・伝戒の真義を、中国禅宗の例や、道元禅師・懐奘・義介・瑩山禅師自身が授戒した人数や、『仏祖正伝菩薩戒作法』を伝授した、伝戒の弟子の人数などを示しながら説いている。 表面は、『洞谷記』「御自伝」に見える、自身は毘婆尸仏の時より羅漢果を証していたという前世譚や、義介より大乗寺の半座を譲られたなどの記事と関連を有しているようにも思われる。また裏面の伝戒の弟子の人数の意味する所など、今後の検討を要する。
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