田川地方の歴史や文化をまとめた読本作成の構想を長野覺先生とお話ししたのは、平成三十一年までさかのぼります。
先生は生前、田川地方は様々な歴史や文化が積み重なった豊かな地方であること、その広がりと深さの影響は北部九州全体でとらえることでその意味が見えてくること、を英彦山や香春岳を例に取り上げて語っておられました。その為にこれまでの諸先輩方の七十有余年の調査研究の上に歴史や文化をみていく必要があること、これまで田川郷土研究会に集われた木島甚久・永末十四雄・泉潔・宮永駿逸・佐々木哲哉・花村利彦・瓜生敏一・安蘇龍生・村上利男・小方泰宏等の諸先達方の業績と足跡をしっかりと整理することから始めるのが大切でしょうというご意見でした。
これまでの様々な刊行物『英彦山』『年鑑田川』『津野』『筑豊石炭礦業史年表』『田川市史』『田川の文学とその人びと』『伊加利人形』『福岡県における川渡り神幸行事調査報告書』『筑豊・田川デジタルアーカイブ』をいかに活用促進するのかが深める課題と広げる課題を追求することになると考えたものです。
令和元年度『郷土田川』五一号編纂の手始めに、創刊号から五十号までの総索引作りに取りかかりました。田川郷土研究会の六十八年間の調査研究には、延五八五人の執筆者、論文コラムタイトル数五四五本があります。これをキーワードに約二五〇〇項目の索引が完成しました。
この完成を最も喜んでいただいたのが、長野先生でした。「さながら田川に於ける歴史文化の百科事典、博物館の観あり」のお言葉をいただき、深める課題の入り口を創ることができました。次に、広げる課題追求の為、索引を基とし「田川の観光歴史文化読本」の編纂にかかる流れができました。
ちょうど期を同じく田川広域観光協会十周年に当たり、この読本の内容を構成することができました。長野先生からは、読者の対象年齢を下げるがあまり内容を平易にしすぎないこと、若い人たちへのヒントやアイディアを提供できるもの、事実に基づいて今後の調査研究の方向を示唆できるもの等のご助言を受け、この『新・田川紀行』の構想がまとまりました。
最後に、こうした機会を与えてくださった田川広域観光協会の理事の皆様、事務局並びに、六〇人の執筆者と十二人の編集委員の皆様、快く調査に応じてくださった地域の方々がおられればこそと深く感謝いたします。