積雪量の多い田川と盆地気候Ⅰ 田川地域の自然環境(一)

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【関連地域】田川市 香春町 添田町 糸田町 川崎町 大任町 赤村 福智町

地形:田川盆地

 田川地域は南北に長い盆地です。南端には主峰の英彦山一二〇〇mがあり、それに鷹ノ巣山九七九m、岳滅鬼(がくめき)山一〇三六m、釈迦ヶ岳八四四mなどが加わって南部山地(英彦山系)を形成しています。ここから東部山地と西部山地の二つの山並みが北に向かって両腕で抱え込むような形で伸びて盆地を取り囲んでいます。東部山地は鷹ノ巣山から柳峠七七〇m、桑木峠五九〇m、犢牛(こっとい)岳六九一m、戸城山三一八m、大坂山五七三m、障子ヶ岳四二七m、味見峠三四〇m、平尾台の竜ヶ鼻と並び、西部山地は釈迦岳から斫石(きりいし)峠六二〇m、芝峠五四二m、戸谷ヶ岳七〇二m、熊ヶ畑山五三三m、帝王山二一二m、金国山四二二m、入水峠一四〇m、烏尾峠一二〇mと並んでいます。

 さらに盆地の北端には金辺峠二二〇m、香春岳五一一m、牛斬山五八〇m、福智山九〇〇m、鷹取山六三三mなどからなる北部山地(福智山系)があって田川盆地はきれいに山々に囲まれた形になっています。盆地を流れる彦山川、中元寺川、今川の間には田川東丘陵と田川西丘陵があり、前者には日岳五八九m、戸立峠三一〇m、岩石山四四六mなどが含まれます。

気候

 気候は筑豊盆地型と呼ばれ県内のほかの地域と違った特徴があります。昼と夜の気温の日較差、夏と冬の気温の較差の大きいのが特徴で、特に冬季は周囲を山々に囲まれているために夜間の風が弱く放射冷却が起こり易く、冷え込みが激しい傾向があります。北九州市や福岡市より朝の気温は二~三度低いのが特徴です。

 地球温暖化の影響で近年は雪があまり降らなくなりました。昭和三十年代ごろまでは平地でも三十cm以上の積雪がよくあり、積もれば雪だるまや小さなかまくらを作ったりして遊んだものです。大霜の朝には分厚い氷が張りました。今でも英彦山では別所から高住神社の間が不通になることが多く、また小倉方面から田川に通勤している人に金辺トンネルを抜けたとたんに雪が積もっていて驚くとよく聞きます。降水量は英彦山地が最も多く、次いで福智山地となります。

植生相

 田川地域の山地は標高七五〇m以上が冷温帯気候で森林の植生はブナ・ミズナラ・シオジ・カエデ類などからなる夏緑樹林(落葉広葉樹林)であり、それより低い地域は暖温帯気候でシイ・カシ・タブ・クスなどの照葉樹林(常緑広葉樹林)です。

早春のシオジ林


 英彦山では標高千m以上の稜線部にブナ林が広がっており、林床にはクマイザサが一面にあって全国に誇れる美林でしたが平成三(一九九一)年に襲来した大型台風により大きな被害を受けました。稜線部にはブナのほかタンナサワフタギ、オオカメノキ、ベニドウダンなどがあります。

英彦山稜線部のブナ林(1990年)


 高住神社から一本杉に至る谷間には県下唯一のシオジ林があり、ヒコサンヒメシャラ・チドリノキ・ツリバナなどを伴っています。

 福智山は標高九百mの山ですが、ブナやミズナラはありません。ただ山頂部には英彦山のブナの林床にあるのと同じクマイザサがあってきれいな草原となっており、登山者に人気の山です。

 田川地域の照葉樹林帯で特筆すべきは香春岳と平尾台の南端にあたる竜ヶ鼻、福智町広谷の竜ヶ鼻などの石灰岩地にあるイワシデ林です。イワシデは石灰岩地に適応した高さ三~五mの落葉広葉樹で好石灰植物と呼ばれています。イワシデは樹下にイワツクバネウツギ、イブキシモツケ、チョウジガマズミ、コバノチョウセンエノキなど他の地質のところでは見られない好石灰植物を伴っています。また、これらは今から百万年くらい前に日本列島と朝鮮半島が陸橋で陸続きになっていた際に半島のほうから分布を広げてきた植物たちで大陸系の遺存植物とも呼ばれ、いわば生きている化石ともいえる植物です。ここには日本で進化したシロバナシンショウヅルという好石灰植物もあります。

香春岳のイワシデ林


 岩石山や上野峡などの花こう岩地はかつてアカマツ林でしたが伐採されたり、マツノザイセンチュウの被害によって枯れ、今ではシイ・カシ・コナラなどの林に変わっています。

 上野峡と英彦山の岩場にはきれいなゲンカイツツジが咲きます。これも大陸系の植物です。

(熊谷信孝)