動物相
動物は移動性があるので近隣地域と大差はないと思われますが、脊椎動物について少し述べておきます。
哺乳類
イノシシとニホンジカがほぼ全域に棲息しており、農業や林業などに大きな被害を与えています。これらの動物は平成三(一九九一)年の大型台風により山林が荒廃した直後から急速に増加したと思われます。ニホンザルは香春岳を中心にかつては二百頭あまりが棲息し、野菜や果樹、時には家の中まで侵入して荒らしまわりました。平成二二(二〇一〇)年には三群に分裂し、三十頭あまりの群れが香春岳にのこり、後の二群は北九州市とみやこ町方面に移動しました。その後、捕獲したり、山に追い上げたりしてきたため数が減り、作物被害なども減っているようです。北九州市ではハナレザルが市街地に出没して人に噛みついたりして話題になっています。
タヌキはかなりいてよく交通事故に遭っています。ホンドキツネは昔に比べるとごく少数です。最近はアナグマに加えて外来種のアライグマが増加して果樹や野菜に大きな被害を与えるようになってきました。イタチはチョウセンイタチに追いやられてほとんど姿を消しました。
珍しい動物にムササビやヤマネがいます。共にネズミ目(もく)(げっし類)の哺乳類です。ムササビで英彦山などでは夜間に木々の間を滑空し、ヤマネは体長六~八cmと小さく冬の間木のほらなどで冬眠することで有名です。
鳥類
英彦山地ではクマタカ・アカショウビン・コノハズク・アオバズク・ツツドリ・カッコウなどの珍しい鳥が確認されています。カッコウ・ツツドリ・ホトトギスなどのカッコウ科の鳥はほかの種類の巣に托卵します。
霊山に最もふさわしい鳥はブッポウソウ(仏法僧)でしょう。実はブッポウソウには姿のブッポウソウと声のブッポウソウがいます。姿のブッポウソウは近年姿を見せないそうで声のブッポウソウだけが棲んでいます。この声の主は実はコノハズクで、フクロウの仲間であるため主に夜間に活動し声は〝ブッポウソウ〟と聞こえます。
アカショウビンは赤茶色のやや大型のキツツキの仲間で平成十七(二〇〇五)年に豊前坊で子育てをして話題になりました。
夏の間、豊前坊からシオジ林に入るとアオゲラやオオアカゲラが木をつつく音がこだまします。さらにカッコウ・ツツドリ・アオバト・オオルリなどの声が聞こえ、北岳から中岳への稜線ではコマドリも加わって深山ならではの小鳥の声に浸ることができます。
は虫類
英彦山には蛇が八種類います。その中でタカチホヘビは明治二八(一八九五)年に当時の高千穂宮司が国内で初めて発見したもので氏の名前をとって命名されていますが、英彦山だけに棲んでいるヘビではありません。英彦山の山中で出会うのはマムシと思ってよいくらい多くいるので注意しましょう。
両生類
特に取り上げたいのはオオサンショウウオ(ハンザキ)です。この動物は国の特別天然記念物として保護されています。
昭和五一(一九七六)年五月に中元寺川下流の糸田町で小学生が体長五六cmのオオサンショウウオを捕獲したことがあります。おそらく洪水で流れてきたものと思われます。後日棲息地と思われる陣屋ダム上流に放流されました。昭和六十(一九八五)年には陣屋ダム上流で中学生が体長八十二cmの大物を捕獲しました。これもすぐに放流されました。オオサンショウウオはとても成長の遅い動物なので上流の大藪地区には複数のオオサンショウウオが棲んでいると思われます。
一方、昭和五六(一九八一)年五月には赤村の十津川で体長七十cm,体重二・五㎏が捕獲されました。また、平成二(一九九〇)年には下流の今川でも捕獲されました。この二匹は大きさ、体の特徴から同一個体と思われます。またこの個体は昭和三六(一九六一)年にも捕獲されたことがあります。十津川の上流にはハジカミ淵と呼ばれる場所があり、昔、十津川上流部にはかなりの数のオオサンショウウオが棲息していたといわれています。ハジカミはオオサンショウウオの地方名です。
ニホンヒキガエルは雨後の山道で時々見かけます。すごく大きいのに出会うこともあります。八月下旬に北岳山頂のクマイザサの中に数匹いて驚いたことがあります。どこで生まれたのか。水のない急な斜面や崖をどう乗り越えてきたのか。何のために山頂まで登るのか不思議でなりません。英彦山権現詣でとでも言ったらいいでしょうか。
昔どこにでもいたトノサマガエルやアカハライモリはほとんど見られなくなりました。