新羅国神(しらぎのくにのかみ)と香春 自ら新羅国から来た神

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【関連地域】香春町

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自ら渡って来た新羅國神(しらぎのくにのかみ)

 香春岳の最も古い記録は八世紀前半の『豊前国風土記(ふどき)』逸文(いつぶん)です。「昔者、新羅の國の神、自ら度り到来りて、此の河原に住みき。便即(すなわ)ち、名づけて鹿春(かはる)の神と曰ふ。又、郷の北に峯あり。頂(いただき)に沼あり周(めぐ)り州六歩(あし)ばかりなり。黄楊樹生ひ、兼(また)、龍骨(りゅうこつ)あり。第二の峯には銅、并(なら)びに黄楊(つげ)・龍骨等(たつのほねども)あり。第三の峯には龍骨あり。」と、香春岳二ノ岳の銅について書かれています。新羅系渡来人による採鉱や製錬の様子を伝えているのでしょう。

 正倉院に納められた豊前国の戸籍では仲津郡、上毛郡では泰部(はたべ)や勝(すぐり)など渡来系姓の平均値は約八割にも及びます。渡来系や土着の民が村主(すぐり)に組み入れられ、香春岳二ノ岳の銅採鉱と製錬に関連した技術系渡来人が祀った神が「鹿春の神」と考えられます。

 長畑古墳からは六世紀前半の金製垂飾付耳飾(きんせいすいしょくつきみみかざ)りが出土しています。これは朝鮮半島南部の洛東江中流域の大伽耶地方の三国時代五・六世紀のものと近似し、渡来人との関わりが深いものです。

 五徳畑田遺跡(ごとくはたけだいせき)からひとつ丘陵を越えたところには、夏吉古墳群が拡がっています。六世紀末の夏吉二一号墳から三塁環刀柄頭(さんるいかんとうつかがしら)が出土しています。慶州の王陵級の古墳や洛東江東岸地域からも出土していて、伽耶諸国(かやしょこく)や古新羅との関係が推測されます。

 五三二年には金官伽耶国(きんかんかやこく)が滅亡し、五六二年には伽耶諸国が新羅に併合され、六七六年には新羅が朝鮮半島を統一しました。さらに、六八一年には新羅国で王族・貴族の反乱が起き、新羅の渡来人のことが記録に残されています。六世紀中葉ぐらいから伽耶諸国の渡来人が増加し、七世紀末には新羅の渡来人が増加したのでしょう。

昭和10年以前の香春岳 提供:重藤萬里コレクション


奈良の大仏鋳造(ちゅうぞう)と技術集団

 天平十五(七四三)年、聖武天皇が仏教を柱とする国家づくりを願い奈良の大仏を発願(ほつがん)したとき、宇佐八幡神の託宣(たくせん)がありました。「神われ、天つ神国つ神(あまつかみくにつかみ)を 率(ひ)いいざないて必ず成しまつらむ…」と成功を約束しています。この託宣から見ても、各地の採鉱や製錬が宇佐八幡の宗教的支配の下にあったと推測できます。おそらく香春岳をはじめとして備中・備前・長門などの八幡神と関わりの深い諸国の銅と新羅系渡来人の鋳造技術、つまり、寺社や郡司にむすびついた私採私鋳の集団が東大寺大仏造営に投入されていったのでしょう。東大寺の廬舎那仏(るしゃなぶつ)像鋳造は天平十九(七四七)年から二年間余りで鋳造されました。渡来人のもたらした仏教と神の融合で生まれた八幡神は、東大寺大仏造立の功績から、国家の仏法擁護の神として発展しました。

 『豊前国風土記』に描かれてからおよそ百二十年後の承和四(八三七)年、香春神社は官社に昇格(『続日本後記』)しました。豊前国の式内社(しきないしゃ)は六座ですが、宇佐八幡宮三座と香春神社の辛國息長大姫大目命(からくにおきながおおひめおおめのみこと)、忍骨骨(おしほねのみこと)、豊比咩命(とよひめのみこと)の三座です。最澄と香春神との間には様々な伝説があります。

香春神社(阿蘇隈社から和銅二年勧請とされている『弘安解文』)


 弟子円仁は最澄のなしえなかった密教伝来を果たし、天台密教を大成します。慈覚大師(円仁)との関わりで香春社は承和四(八三七)年に官社に昇格したと考えられます。 天平六(七三四)年ごろには新羅との関係は悪化していきましたが、九世紀には鴻臚館貿易から締め出されるも新羅商人の活動は活発化しています。。承和十(八四三)年に辛國息長大姫大目命、忍骨命は正一位の神階の最高位に叙任されました。

(中野直毅)

香春岳周辺銅山跡・朝鮮系考古資料・駅路・神社関連などの位置関係図

国土地理院地図(25000分の1地形図使用)

1 神間歩 2 セルバ 3 御手水 4 横鶴 5 水晶 6 床屋 7 宗丹 8 ズリネ 9 香春岳 10 貴船 11 金堀谷 12 香春神社周辺 13 殿町 14 二ノ岳 15 古宮 16 宮原ヤシキ 17 鏡山金山 18 清祀殿 19古宮八幡宮(古宮八幡神社) 20 夏吉21号墳 21 五徳畑ヶ田遺跡 22 長畑遺跡 23 セスドノ古墳 24 猫迫1号墳 25 天台寺跡(上伊田廃寺) 26 天台寺瓦窯 27 伊田狐塚横穴墓群 28 経塚横穴墓群 29 長谷池遺跡群 30 清瀬横穴墓群 31 浦松遺跡 32 下伊田遺跡 33 河内王墓(陵墓参考地) 34 宮原遺跡 35 阿曽隈社 36 古宮八幡宮跡地 37 鏡山大神社 38 香春神社 39 貴船神社

※赤印1-17は銅山跡 青印は朝鮮系考古資料出土遺跡、駅路関連 緑色は神社 緑ラインは駅路(推定)


 

※縁起では、辛國息長大姫大自命

※開眼供養会は天平勝宝4(752)年