「香春岳は異様な山である。」
五木寛之の大河小説『青春の門』はこのように始まり、「けっして高い山ではないが、そのあたえる印象が異様なのだ。」と続きます。
香春岳は古より神体山として崇められ、『豊前国風土記』逸文にもその名を記された南北に連なる三連峰です。銅を産出した場所であり、東大寺(奈良)の大仏造営や宇佐八幡宮(大分)に奉納する御神鏡の鋳造にもここからの銅が使用されています。昭和十(一九三五)年からのセメント原料としての石灰石採掘よって、現在では一ノ岳の頂はなくなり高さも半分程度になっています。『炭坑節』に♬一山、二山、三山越え~♬と登場する香春岳は、本当に異様な姿に変貌しましたが、田川の人々にとってその雄姿が昔も今も故郷なのです。
(森本弘行)