田香焼(でんこうやき) 清楚と豪快さを兼ね備えた陶器

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【関連地域】香春町 大任町

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 田香焼(でんこうやき)とは、大任町上今任(かみいまとう)と香春町高野で焼かれた陶器を主とする焼き物で、江戸時代後期(一七八九年~一八〇〇年頃)には操業されていたことがわかっており、明治時代にかけて七〇年~八〇年間という短い操業期間だったため、幻の焼き物と言われています。

 窯跡が大任町内に二か所残っており、町の史跡に指定されています。

町指定史跡 田香焼窯跡

(昭和51年10月1日指定)


 「田香」の名前の由来については、田川郡香春で焼いていたことから、小倉藩茶道師範・古市自得斎(ふるいちじとくさい)が命名したという説があります。しかし、伝承や伝世品、採集品から上野焼(あがのやき)の分窯とされてきましたが、詳しい実態が明らかになっていないことから、地元でもあまり人々に知られていない焼き物なのです。

 田香焼の製品については、碗、皿、かめ、徳利、片口、すり鉢、灯明台、仏飯器、おろしといった日常品が主ですが、そのほか茶器や花器、わずかながら磁器も焼いています。

 焼き物の特徴や技法を見ると、三彩、紫蘇手(しそて)、象嵌(ぞうがん)、叩き、イッチン掛け、緑青釉(ろくしょううわぐすり)の使用など福智町上野の上野焼と共通する点が多いことから、その流れをくむ焼き物と思われます。また、武士の茶頭が指導したせいか、清楚さと豪快さを兼ね備えた作品が見受けられます。

町指定有形文化財 筒形花生  提供:大任町教育委員会

(高木誠一氏所蔵)

昭和51年10月1日指定


 発掘調査では磁器の破片が数点出土しており、伝世品の存在があることから磁器も焼いていた事が分かっており、磁陶兼用の窯は他に例を見ない珍しい窯でもあります。

 陶器と磁器の違いとして、陶器は、粘土が原料で、低温で焼きます。仕上がりは、たたくと鈍い音がします。上野焼、小石原焼(こいしわらやき)などがこの特徴です。

 磁器は、陶石が原料で、高温で焼きます。仕上がりは、たたくと金属音がします。有田焼や伊万里焼などがこの特徴です。

 また、焼き物を制作するのに使用される窯道具では、ハマ、足付ハマ、トチン、目、タコハマ、テンビン、サヤ、足付サヤがあり、中でも特異なものとして足付サヤがあります。窯道具は、主に製品を積み重ねたり、窯詰めの際などに用いられるものです。サヤは円筒形をしており、窯に詰めたときにサヤとサヤとの間に隙間ができてしまうので、その隙間を有効活用するためにサヤに足を付け、無駄なく効率よくスペースを活用するために考えだされた道具だと思われます。そして、隙間の有効活用は燃料の節約にもつながるからだと考えられます。発掘調査では、焼き物を一つだけ入れるものと、中に三段積み重ねることができるものが出土しています。

足付サヤ  提供:大任町教育委員会


 道具一つみても、先人たちが悪戦苦闘を繰り返し、工夫や改良を重ね、焼き物を焼いた苦労を垣間見ることができます。

(佐々木絵里奈)

碗  提供:大任町教育委員会


田香焼の流れを今に伝える上野焼香春徹山窯 三代目山岡徹山


香春町に伝わる田香焼(個人蔵)