田川地方の民話(概説) 昔話のこと
この度採話した文章を読んでみると大きく次の三点に分けられます。
一 昔話―空想的な世界を内容とした民間説話
二 民話―民衆の中から生まれ、伝承されてきた談話
三 伝説―うわさ・風説・口碑など具体的事物を中核とした説話
この三点とも口承文学として残されていることは、すべて一致します。ここでは、昔話について述べます。
●昔話の基礎を知る
昔話は、口承(口伝えで伝えられて来たこと)されてきました。口承されるということは、語り手が口で話したことを耳で聞き、聞き覚えたその内容を再び口で話し伝えるのですから、文字としては残らず消えてしまうということです。つまり昔話は、時間に乗った文芸なのです。したがって聞き手が聞くだけで理解できる文章、簡潔な文章でなければならないのです。囲炉裏端で孫などにくりかえし語り聞かせてきたお年寄りたちは孫や子どもたちがわかりやすいように語ってきたのだと思います。そのために、昔話はいつの間にか簡潔で明快な文体になってきたのです。
ところが、現代の大人は、子供の頃、祖父母から毎晩耳で聞いてきた経験がなく、昔話といえば本を読んで知る話に他なりません。したがって、耳で聞かれてきた簡潔で明快な文体ということ自体を知らないのです。そういう大人が、昔話を、著者としてあるいは編集者として、昔話らしくない描写的なあるいは感情移入的な文体にしてしまうことが多く見られます。昔話は、その土地の言葉で語られるのが美しいと感じます。日本の昔話は必ずその土地の言葉で語られてきたということです。
では、昔話をどういう日本語で語るのがいいのでしょうか。まず、土地言葉ができる人はそれで語る。次に、その土地で使われている日常語で、今一つは、共通語で語る事です。
●昔話の話型
日本の昔話には、爺さん・婆さんの話が多く、最初に出てくる爺さんは正直で働き者で、幸せを獲得する。あとから出てくる爺さん・婆さんは強欲で、人まねをしてしまいには罰を受ける、勧善懲悪の物語です(花咲爺、舌切雀、こぶとり爺さんなど)。
昔話に対する世間の理解としては、昔話は、老人ばかり登場する勧善懲悪の物語ということになります。これらの話は日本昔話の代表というわけではなく、昔話の話型の一つです。対して、子どもや若者が主人公の場合、その主人公がさまざまに変化しながら成長していく姿を語っていくことが多いのです(わらしべ長者・三年寝太郎など)。昔話には、怖い話もあれば、うそつきの話、怠け者の話もあります。
このことに注目したいです。昔話を理解するうえで、昔話から、どういうメッセージを受け取るかということが大事なことだと思います。
●昔話の語り口のきまり
昔話の語り口にはきまりがあると言われています。
1.普遍的―風俗・習慣・生活様式・信仰・社会組織は異なるのに、伝承している昔話の語り口の様式が共通なのは、語り手は聞き手が聞き易いように語るという語り口が普遍的であるという事。
2.一次元性―昔話は、人間と彼岸的世界の住人(彼岸者)との間に精神的断絶がないという事(桃太郎、浦島太郎等)
3.平面性―切り紙細工的な語り口(馬方とやまんば、どうもこうも等)
4.物事の一致―場所・時間・状況・条件等の一致(ねずみ経、古屋の漏り等)
5.昔話は描写しない
6.残酷な場面はあっても残虐には語らない
7.同じ場面は、同じように語る
このような昔話の語り口のきまりを見つけて語りをしてみてはどうでしょう。