英彦山の麓ん村にごんざ虫ちうのがおりますが、人間そっくりの顔ばしちょって、こげな話が伝わっとるそうです。
昔、昔、英彦山の麓ん村に正直者の徳兵衛という爺様がおりました。しかし爺さんに難儀が続き、妻に先立たれたり、自分は病の床につき、爺さんの三人の子は、食べ物にも事欠くようになってしまいました。薬も買えんごとなってしまいました。
長男の源吉が大金持ちの権三叔父さんに助けてもらおうち、すがっていったそうです。しかし、権三はけちんぼうで「用のある時だけ来くさって」と穴のある銭を十枚ばかり源吉に投げつけて「とっととうせえ(失せろ)」と、ケンモホロロやったそうです。でもこん位の銭じゃ、じきのうなった(無くなった)そうです。仕方なしに、また権三んとこに借りに行ったそうです。そしたら今度は、道に源吉を突き倒してびた一文も貸さんかったそうです。それで源吉は泣く泣く戻りよると、途中一人のとても気高い年寄りが現れました。
その年寄りは一足の古い下駄を源吉にやり、「お前が一つの望みをかけてこん下駄を履くと、スッテンコロリンと転げ落ち、小判が一両出る。ばってん、人ん為ならええが、我が欲で使うちゃならん。我が欲で使うと、体がこおーも(小さく)なるきのう」
と言うたかと思うと消えてしもうたそうです。この老人こそ英彦山権現さんじゃったそうです。
源吉がもらった下駄のおかげで徳兵衛爺さんは助かり、子どもたちも不自由することはありませんでした。
ところがこの話を聞いた欲の深い権三は「こん前貸した金を返せ、返せんやったらこの下駄をくれえ」と言って下駄をもぎとったそうです。
権三は家に帰るなり、内側から錠前をかけてスッテンコロリン、スッテンコロリン。晩になっても朝になってもスッテンコロリのスッテンコと転んじゃ小判を出し、転んじゃ小判を出したそうです。
小判は山のように出たそうだが、権三の体は段々こーもなって(小さくなって)とうとう、一匹の虫になっちしもうたんじゃ。そおや、そおや、権現様のバチがあたったんたい。こん下駄を人間が持っちょると欲の皮がまた出るきちゅうて英彦山権現に返したそうですが、お宮じゃ、二度と人手に渡らんごとと言って、床ん下に深こう埋めてしもうたそうです。